タイトル『boy's trick』
俺から見た、ロイ・マスタング。
たらし、嫌味、サボり魔、地獄耳、いけ好かない、だいたい普段サボってるくせに給料はまじめに働いている中尉たちよりも良いのかよ……と言う具合に数えられないくらいの罵詈雑言のオンパレードになる。
確かに恩はある。
禁忌を犯した俺たちのことを軍部には内緒にしてくれている。(自分の出世のためだが)
国家錬金術師で腕は確か。(雨の日は無能だが)
戦略もう、うま……だー!!俺よりも戦略に長けているなんてそんなことはあるはずがないんだ!アレは、うまいんじゃなくて、狡賢いだけだ!!
とまあ、それは置いといていつでも余裕顔していて、上から見下ろすタイプの奴だ。
だが、おもしろい情報を得た。
あの、大佐に婚約者がいる、という。
しかも、あの大佐が、婚約者の前では俗にいうへたれ、らしい。大佐はいっっっつも、ナンパをし女を引っ掛けている。それも、こっちが聞いてて寒気のたつようなセリフを使って。
その大佐が、婚約者に対して、へたれ。これはぜひ見にいかなくては、と思い俺と弟のアルは東方司令部に報告がてら、見物に来たのだった。
「どーも。」
「こんにちは。」
俺たちが執務室に入ると、いつもの如くハボック少尉やホークアイ中尉が出迎えてくれた。
「あら、エドワードくん、アルフォンスくん。久しぶりね。」
「よー、大将。」
とりあえず、室内を見渡す。すると、いつもの通りスカシタ顔してこちらを見ている大佐がいた。
が、婚約者っぽい女は居なかった。あまりに俺がきょろきょろとしていたので大佐も不審に思ったらしい。
「鋼の?どうしたんだね?」
とりあえず、報告書を出そう。と、その時、廊下から談笑が聞こえた。一人は聞き覚えのある声、フュリー曹長だった。もう一人は、誰だ?
そして、不図、目の前の大佐に目をやると……
固まっていた。
「は、鋼の、報告書を速く渡したまえ。そうして早く出て行くのだ。」
固まっていたのはほんの少しの間で、解凍されれば、目に見えてあわてるのだから面白い。
その態度で、もう一人が誰かなんてすぐにわかった。
婚約者にちがいない。
「え〜。なんだよ、急に。いつもならお茶でも、とか言って嫌がってても引き止めるくせにな〜〜。」
なー?アル?
とアルに同意を求めつつも意識は廊下だ。段々と声の主は近づいてきている。もうすぐだ、もうすぐ。
あと少し、時間さえ稼げれば。
「私には仕事と言うものがあるのだよ、鋼の。速く、帰りたまえ。」
嘘付け。いっつも、期限ぎりぎりまでためてるじゃねえか。
足音はすぐ側まで来ている。
あ、そうだ。
ドアの開くタイミングに合わせて、と。
こんこんっとノック。返事をするホークアイ中尉。
後日談だが、このときの俺の顔は満面に笑みを浮かべていて怖かったと、アルは言っていた。
よし!!今だ。
「へ〜。その仕事って、外に女をナンパしに行くこと?」
目の前の大佐の顔から、血の気が引いていった。いつもの余裕なんて微塵にも感じさせない。
が、それと同時に部屋の温度も数度下がったような。
しかも、それは入室してきたほうから。
「どういうことでしょう。ロイ。」
少しアルトの声が尋ねる。
さーて、ご対面〜〜。
振り向いた俺は後悔した。
こわっ!
顔のつくりは、美人の部類。髪もストレートで腰まである黒髪。その目は髪と同じ黒。口元には微笑を確かに浮かべているのに。その目の放つ威圧感。比喩でもなんでもなく、視線で人を殺しそうだ。
その美人はどんどんこっちに近づいてくる。いや、正確には大佐のほうへ。だが、なんだか視線はこっちのような気が。
「いや、まて、落ち着くんだ。!」
あー、さんって言うんだ。なんて、人事のように思っていたらそのさんは俺のほうへ向かってきた。
「そのことは本当ですの?ロイが仕事と称して、ナンパをしに行くなんて。」
「仕事と称して、じゃなくて」
ちらりと大佐を見る。なんだか、縋るような目つきだった。アフレコするならば、
(鋼の。余計なことは言うな)
と言ったところか。
「うん。仕事じゃなくて“視察”って言ってるよな。」
と満面の笑みで大佐に確認のように言ってやった。
うなだれる大佐。そこから先は、大佐がひたすらおろおろしていた。対してさんは丁寧な口調でずばずばと言っていた。残念ながら、そのすべて(言動)を記憶することは難しかった。ここから先は俺が覚えている中で確実な会話だ。
「つまり、“視察”と称してナンパを。」
「い、いや。そんなことはない。街のものとの交流は情報収集の一環で…」
「女の方をだけ、と他の方からも伺っております。」
「ほう〜一体、誰がそのようなことを、言っているのか」
「花屋のレティさん、ケーキ屋のシルフィさん、喫茶店のヘレナさん、看護婦のアナシアさん…えーっとあとは…」
「そ、それはだな…」
「すべて裏は取れていましてよ。」
「……」
「私、だてにあなたの幼なじみではないの。」
「っ!!」
「あなたの過去、あることないことしゃべっても、きっと、皆さん信じてくれますね。」
「なっ!!!」
「例えば〜、桃の実を…」
聞いたこともない奇声により聞こえず。
「どういうことか説明しろや!」
と、最後の一言だけ異様な感じだったがそこは触れずに、その場を立ち去ることにした。どうも、風の便りじゃ、あの後、大変だったらしい。大佐も、周りも、さんも。
今度会うときには、もっとちゃんと話をしてみたいものだなあ。なんか、大佐の恥ずかしい過去を教えてくれるかもな。
fin
【おまけ】
ハボック:「さん、結局、言いかけてたことなんなんっすか?」
:「ああ、それは。ロイは昔、とても弱虫で。」
ハボック:「えっ!?」
:「それで肝試し代わりに桃の木に登って実をとる、というのがあったんです。」
ハボック:「へ〜。とれたんっすか?」
:「ええ、一応。ところが、とった後に嬉しさのあまり、転んでしまって」
ハボック:「え!?」
:「しかも、どうやったのか、その桃の上に俯せで。」
ハボック:「つまり…」
:「ええ。桃はつぶれ、その果汁が下半身にまで及んだので、まるでおもらしをしたかのような状態に」
ハボックはその後、ロイの顔を見るたびにうつむいてしまっていたとか。
Created by DreamEditor