タイトル『炎の中で』
ずっと、側にいる。きっと、あなたの役に立つ。
そう信じて、たとえそれが空振りでも、それを実現できるようにがんばるよ。
ねえ?プライド?
初めて出会ったのがどこであったのか、そんなのもう覚えていない。ただ、戦場であったことだけは確か。周りは火の海。小さなナイフ片手に座り込んでいた私の目の前にあなたは歩み寄った。その手には剣を持ち切っ先を私の喉元に向けて。
死ぬのだ。そう覚悟した。
泣くでもなく叫ぶでもない。聞こえる音は周りの炎の爆ぜる音のみ。ただただ、目の前の男を見ていた。男も私を見下ろしていた。印象的だったのは彼の片目が、ウロボロスの印であったこと。
「ふむ。貴様、名は?」
「。」
これが私たちの最初の出会い。
そして私は生かされた。彼の道具として。
「この件の情報はどうなっているのかね?ジュリエット、否スロウス。」
「…順調よ。あなたの飼い猫が良く集めてきてくれている。私もそろそろあの方の元へ向かうわ。」
飼い猫、それがを指していることはキング・ブラッドレイ、プライドは十分に知っていた。そしてスロウスの言葉からまだ使い甲斐のあることを知ると我知らずか笑みが浮かぶ。それと同時に空虚な心の中にある充足が広がることも、彼は自覚していた。
「そうか。」
「あなたの気まぐれも大概にしておかなくては。いい加減処分なさい。あの方もそろそろそう言ってこられるはずだわ。」
「ああ。」
確かに彼女を拾ったのは気まぐれだった。あの戦場で、排除すべき異民族の一人。あと腐れなく戦争を終わらせるのには殲滅という手段が一番だった。
だが、
「何を血迷ったのか。」
自嘲の笑みを浮かべ今もどこかで情報を得ようとしているだろうに想いを馳せる。プライドは決してに恋慕の情などは抱いてはいなかった。それは確実だ。ただ、戦場での彼女の目が印象的だった。
何物をも受け入れようとするあの目が。澄んだというと聞こえが良いかもしれないが、あれはそういった類ではない。
何にも特に関心の無いものの眼だった。それがあの場所でのみだったのかどうかはわからない。それでも彼女は確かにあの時自身の命に関しても無関心であった。
「そうだな、戯れもそろそろ終いにしよう。決着をつけたら私もあの方の元へ行こう。」
決着、北の方へはロイ・マスタングを派遣。あの場では戦死など造作もなく偽装できる。
その知らせが届くのもそう遠くは無いだろう。
知っている。彼が私に何も求めていないことくらい。私に与える仕事も簡単なものばかり。彼が私の何を気に止めて殺すのを止めたのか…最初は分からなかった。でも、今なら少しわかる。
十分な情報を得て、はプライドの元へ行こうとしたとき妙なものが見えた。それは中央にいるはずの無い者たち。今頃は北地にいるはずの。
(そういえばあの人たちの軍は反乱を起こしたはず。でも、あれは)
反乱を起こした張本人、ロイ・マスタングと側近、リザ・ホークアイが酒場から出てきた。何か嫌な予感がして、はその酒場の入り口で彼らと別れた男をつけた。その男にも見覚えがあったからだ。
(確か、あれは。プライドのところに出入りしていた大工。)
大総統邸宅が侵入者により一時騒然となった。侵入者はリザ・ホークアイ。それによりロイ・マスタングが中央にて起こすことがプライドの耳に入ったのだった。
は駆けていた、間に合わないかもしれない、そうどこかで感じていながらも駆けずにはいられなかった。
(間に合って。でも、私どうしてこんなに必死なの?)
大工から聞いたこと。ロイ・マスタングの計略。それのよってプライドが負けるとは到底感じない。でも、何か嫌な予感がした。虫の知らせともいうべきなにか。
その中で自身に疑問を持つ。彼女は幼い頃から知っていた。自分が他者にあるものが欠けていることを。自身のことにも他のことにも大した愛着、執着が湧かない。どこか欠落している感情。だから、プライドと出会ったときも自身の死になんら恐怖も無かった。
ただ、その男に何かを感じた。自身の持つ何かと似たようなものを。
やっと、大総統宅へ着いたときにはもはや、行動は起こっていた。の目にはセリムとの別れと半ば半壊した家に向かうプライド。
そんな彼の視線が一瞬のほうへ向いた。
(気付いてる。)
壁の抜け穴や隠し穴からどうにかプライドと合流した。
「はぁ、はぁ。…間に合った?あのね、プライド酒蔵に大工が…っえ?」
体に冷たい何かが刺さった感触。その次にそこから熱い熱が全身に回りようやっとそこに視線を向けて何が起こったか理解した。
溢れる液体。
あの時、向けられた切っ先。その続きが、数年の時間を経て今動き出した。
喉元から競りあがってくる、鉄の味。それを中へ押し留めておくことは難しく体外へ排出する。
「がはっ、けっふ。」
どうにも立っておられなくなって地面に両膝を付く。見上げる。そこにいる男を。
その眼には一体なにを映しているのか。
(伝えなければ、酒蔵のこと。)
そう考えていた。その眼を見るまでは。
彼が私を生かした理由を知る。きっとプライド自身気付いていないのだろうけど。
そして、伝えようと思っていたことを伝えずにそのまま床に倒れた。
「まだ、意識はあるようだな。だが、お前はもう助からん、肺に穴を開けたのだからな。せいぜい最期のときまで苦しむといい。お前の役目は終わったのだ。。」
こつこつと離れていく靴音と初めて呼ばれた名をは薄れる意識のなかに確かに聞いた。
「だから、人間は愚かだというのだ。」
セリムに手をかけ、己の材料となった骨の行き先を見るプライド。それは今まで苦戦を強いられていたロイ・マスタングの元へ。
「キング・ブラッドレイ…あなたは何回殺せば……死ぬのかな。」
「けほっ。」
目の前がひどく霞む。足も動かなくなってきている。もう、終わりが近いのね。壁に寄りかかり片足を引きずりながらは爆音を頼りにそこへ向かう。
彼があの時私を生かした理由。私が彼に従った理由。
彼も私も似ているのよ。
何にも関心をもてず、何にも愛着を持たないところが。うわべだけ取り繕い、心底ではきっと何物も軽蔑している。
だから、せめて最期に見たいの。彼を。
彼が私に求めたのはきっと似たもの同士だからこそできること。
酒蔵へ行くと、何とか原型を保っているプライドの姿とおそらく最期の一撃を加えようとするロイ・マスタングの姿。彼自身もそうとう満身創痍だった。
「……まって。……ねえ、まって。」
それは小さな声、炎の爆ぜる音で聞こえるはずも無いほどの声。
だがそれに反応したのはロイ・マスタング。
「きみは?」
面識もない女が、いきなり現れて確かにロイ・マスタングは僅かだが意識が削がれた。見ればその女も怪我をしている。それも見て分かるほどに手遅れだった。傷口が肺を貫いていることも容易に見えた。
「敵の目の前で、意識を逸らすとは、愚かものが。」
材料となったものをロイ・マスタングが持っている限りプライドは動けはしない。だからこの嘲りも最期であることを自身がわかって発したのかもしれない。ちらりとのほうへ視線を向けるプライド。
「まだ、生きていたか。」
「……伝えにきたの。それにやることがあったから。」
「言うがいい。互いに最期、聞くことはしてやろう。」
「あなたはもう一人の私。そして私もあなた。
だから、最期の止めは私が刺してあげる。」
一体どこにそんな力があったのか、は渾身の力を振り絞って言い終えた瞬間、ロイの手から材料を奪い取りそのままプライドへと向かった。
そして、そのまま真正面からプライドを抱きしめ後ろにある火の海へと雪崩れ込んだ。
『一緒に。せめて最期だけでも。似たもの同士の最期くらい一緒でもいいでしょ?
始まりも終わりも火の中で。』
後日、大総統邸宅後からは何かを包みこむような格好で死んだと思われる女性の焼死体が発見された。ただ彼女の下からは何も発見されなかったとか……
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