タイトル『忍と一般人』
いつか、こんな日が来るとわかっていた。予想できる事だった。
だから、これは仕方がないこと。私は一般人で決して忍にはなれないから。
時計の音がやけに耳につく。
テーブルの上には秋刀魚の塩焼きが冷めている。甘いものの苦手なあの人のために、とケーキではなく甘さ控えめの和菓子が冷蔵庫の中で
冷えている。
料理を作る肝、もう失せた。
時間はもうすぐ9月16日をさす。
あの人は今日ここには来ない。
一般人には縁のない人。場所。そこに呼び出されたのは今日の午後。
『どうぞ、こちらですよ。』
花に横に伸びる傷を持った忍―イルカ、といった―が案内をしてくれた場所は、火影のいるところ。五代目火影の、綱手が。
『失礼します。』
入室して、驚いたのはそこにいた面々。ご意見番のホムラ、コハルもいたのだから。最初から、妙な胸騒ぎがあった。
面子をみて、ただちに帰りたくなった。だって、予感がする。
『すまないね、急に呼び出して。』
『……いえ。』
苦笑する五代目に固い声で返してしまう。考えてみれば、この人に会うのは二回目だ。
『緊張してしるようだな。…まあ、そこへ掛けなさい。』
ホムラの声に綱手の眉がかすかに動くのを、確かに、見た。
『忍は優秀な血を、後世に残さねばならぬ。』
ボーンと、時計がなった。そして過ぎたのはカカシ不在のカカシの誕生日。
今頃、彼は、里のために、優秀なくの一を、
抱いているのだろう。
ごろりと床に寝転がる。ベランダから一人で月見をしていた。周囲は静かで皆、寝静まったようだ。月見をしていても誰も来はしないのに。
目を両手で覆う。目頭をおさえる。
わかっていたこと。
「わたしには、ないもの。」
『カカシほど、優秀な忍は稀なのだ。』
『もちろん、そなたとの子ができたとしても優秀な忍になるやもしれん。』
『だが、こちらとしては、その可能性をより大きなものにする義務がある。』
『付き合うな、とは言わん。
だが、協力はしてもらおう。これは里のため、そして、忍と付き合うそなたの宿命と考えよ。』
ぽっかりと何かが抜け落ちたような虚無感。
「わかって、いたもの。」
呟くたび、それは大きく私の心を支配する。予測して、予感して、でも、
揺らいだ。
彼らの声を、言っている事を理解していくと、反発するものが出てきた。
「浅ましい。」
私の中の醜い欲。あれは、相談でも許可を求める問いでもなく、
確認だった。すでに決定されていたこと。
事後報告。
でも、
なにも、
今日でなくてもいいではないか。今日は、カカシの誕生日だったのに。
『わかりました。』
決して震えた声などだすものか、泣くものか、という意地で各々の目を見据えてただ、一言答えた。
その時の綱手の顔が離れない。
哀れむでもなく、呆れるでもなく、渋面をつくっていた。
「っ。」
掌がしみる。部屋を出て握り締めた手を見れば、爪あと。
血が滲むほどの。
それほどに私は……。
「醜い。」
風が吹いた。日中は残暑が厳しくとも、この時間になれば涼しいものだ。
待っても、来ない。
私がしなければいけないのは次に会うとき、いつも通りをする覚悟。
半日以上かけて出た答え。
それだけなのに、随分疲れた。
そろそろ寝てしまおう、と思い至り身を起す。
そして、見た。
今、この場にいるはずのない人物。
が、ベランダにいるのを。中腰に柵のところにバランスよく座っている。いつも通りに片手を上げて。
「やっ。」
「カ、カシ。」
「夜分遅くにごめ〜んね。ちょっと、に聞きたいことがあってさ。」
固まるしかなかった。やっとさっき、答えが出たのだ。まだ、覚悟なんて、できていない。それに……
「いつから、そこに。」
少なくとも目を覆う前はいなかった。今、目を開けるまでに私はポツリポツリと、どれだけ呟いたのか。
どこからか、聞かれていた可能性がある。
「ん〜〜。が“私にはないもの”って言ったあたりから。」
つまりは、最初から。
冷や汗が伝うのが分かる。スッと閉じられていたカカシの目が開くのを見て、反射的に窓を閉めた。
鍵も、カーテンも、すべて閉めた。
見えたからだ。
目の奥底に怒りが。冷たさが。
感じたこともない恐怖が。背中越しに窓の冷たさが伝わってくる。
そして前方から伸びる、影。足音。
「……。」
顔を上げる勇気がない。
確かめるのが怖い。
だって、確かに私は目の前にいるカカシに対して窓もカーテンも閉めた。だから今は、眼前には誰もいない、はず。彼はベランダに締め出されている。
決して、目の前にいるはずがない。
「いきなり閉めるのは、ルール違反、だ〜よ。」
認めたくなくて俯いていたら上から声が降ってきた。まぎれもなく、カカシの声。
「聞きたいことが、あるんだよ。」
近づいてくる声。後ろにさがりたくとも、場所もない。自ら閉めた窓、のみ。
「」
目線の先には、自分の足と10センチほど離れたところにあるカカシの足。
「…。―――」
「こっち、向いて。」
「……。――――。」
声が出ない。身体が動かない。カカシから、発せられる言葉に刺されたみたいに。その身体から冷たいものでも流れているかのようで
身体が震える。
「寒いの?。震えてる。」
右手が左頬に触れられる。これだけ、冷たいオーラが出ていると言うのに触れる手は暖かい。
「こっち、向いて。」
「……。―――――。」
「どうしても、向かない気?」
沈黙を守り続ける私に、業を煮やしたのかカカシの手が下あごに移る。
「…っ。」
そうして力をこめて、無理やりに上向かされる。
「今日、火影様から任務を言い渡されたよ。このくの一を抱け、ってね。」
カカシの口から聞くのは別なのだ、と思った。何よりも、辛い。その視線ですら辛い。だから、そらそうとして。ずっと、見ていると泣きたくなる。
喚いて、叫んで縋りつきたくなる。
「逸らすな。」
「……っやっ!」
視線を逸らす事は許さない、とでも言うように手に力を篭め、カカシは顔を近づけてくる。
「驚かないんだ〜ね。さっきの言葉も聞いたけど、知っていたのか。」
疑問ではない。これは確認。声はどんどん低くなる。
是とも否とも、いえない。
どちらを言っても状況は悪くなる気がする。
「。」
「……っ!!」
怖かった。
だから思い切り目の前のカカシに力を篭めて突き飛ばした、はずだった。
「上忍をなめるんじゃな〜の。」
あっさりと両手首を捕らえられた。たいした力も入れてなさそうなのに、渾身の力をこめてもソレは外れず。
というか、びくともしなかった。そのまま足が宙に浮くのを感じた。次の瞬間には背中から衝撃。
「いった!!」
小さく叫び、目を開けると天井とカカシのみが見えた。手首は頭上にまとめあげられ、不自然な格好が身体に負担を訴える。
「、こたえて。」
「知って、いた。」
「火影様から、聞いたの?」
「…そう。」
「了承、したの。」
言葉にしたくなくて、
小さく頷く。
「…ん、ぅ…ん。……や。」
直後にか見つかれるようなキスをされる。否、ようなではなく、実際に噛付かれた。カカシの唇が、首すじを伝い鎖骨に辿りつき、そこで鋭い痛みを感じた。
「っ!痛!」
背中に何か感触がある。動いている。どうやら先程、押し倒された際に下敷きにしていたらしいカカシの腕。それは少々、衝撃を緩めたのだろう。
だが、いまはそれ所ではなかった。こともあろうにソレは下着を外しにかかっていた。
「嫌!!絶対に、いや!!」
「なんで?
なんで、了承なんてしたの?」
「だって、しょうがないじゃない。私はあげられない。」
「何を?」
「…。」
「応えて、。」
耳元で囁かれる声。太目をカカシに向ける。苦しそうな哀しそうな顔、目。
「優秀な、血。体。私は忍びではない。」
「。」
「あげられない。もっていない。
ソレを持っている人がいる、里のためという人がいる、そういわれたら何もいえない。
私は一般人だから。我を通せばわがままになる。
里を守ることもない、護られた土地で暮らしているだけ。」
(けれど。)
「じゃあもう一つ。
何で今、嫌がるの?」
頭上の手をぎゅっと握り締める。鈍痛が走る。無性に叫びたい。己の醜い欲を曝け出すことになろうとも。
「何で?」
「…ないで。」
「ん?」
「他の女を抱いた手で、私に触らないで!他の女のナカに入ったその身体で、抱かないで!
殺したくなる!カカシも、その女も、
私も!!」
一息に行ってしまう。自分のふがいなさ、情けなさに涙が出る。拭おうにも、手は頭上。流れるにまかせるしか、ない。
「……はぁあああ。」
先程までの怒気も薄くなった。ため息と共に。
同時に手首を戒めていた力も抜けていった。
「カ……カカシ?どうしたの?」
「やっと、本音聞けた。」
「え?なにふぉ!?」
いきなり鼻をつままれ変な声が出た。
「、何でもっと早く言わないの。」
「嫌いでしょう?女に駄々こねられたり、束縛されたり。私は、厭だ。」
鼻にある手はどけられたが、体勢は相変わらず押し倒されたまま。もう、言い逃れようとか、逃げようとか考えはない。
「まあ、ね。でも、今回のは違うでしょ?」
「?」
「一般人だからこそ納得なんていくはずない。素直に了承されたのでギャクに心配だって火影様、言ってたよ。あと…」
「!?」
「これも。」
頭上にそのままにしてあった手。ちょうど掌を表にしていたので傷跡も見えていたらしい。
「さわらなっ」
「抱いてないよ。」
何を言っているのか、すんなりと意味を持たなかった。呆然とカカシの顔を見て、行動を見続けた。私の手は、カカシの口元へ行き傷口へと触れる。
手から伝わる感触。湿っていて、やわらかい。舌の動き。後に伝わる、鋭い痛み。
―ダイテナイヨ
伝わる言葉。
「何で?許される事なの?」
「ん〜〜?支障なくはないけどね。抱いたほうが支障出るからってことで。
ソレより。俺がさっきの言葉、嘘だって言わないんだね。」
はた、と気付く。
(確かに。)
目の前のカカシはやけに嬉しそうだ。ふわりと風が舞う。身体に少しずつ感じる重みと体温。
「多分、も俺も、自分が思うよりずっと互いの事想ってるんでしょ。」
自分の手をカカシの背にまわせればいいのに、今の私にはできなかった。
いつか、まわせる日がくるといいな。
後日、慰霊碑のところで火影様に会った。
「よぉ。」
「……こんにちは。――あの」
「うん?」
「里のため、優秀な血は必ず必要です。けれど、里の歴史を築くのは忍だけでも一般人だけでもない。そこに住んでいる人たちすべての軌跡だと思うんです。」
「…。」
目線で先を促される。
「だから、生まれてくる子供。
もし、カカシとの子が生まれるならば、その子がちゃんと。
任務などではなくそういった義務ではなく生まれた欲しい。そうして忍になるか否かもわからないけれど築いていってほしい、です。」
「そうだな。この間はすまなかったな。」
「いえ。」
そうして火影様は去っていった。もう二度と会うこともないだろう。
カカシとの子供。先のことはわからないけれど今は歩いていくしかできないから。
だから、そのためにまず、カカシがこの世に生まれたことを感謝しています。
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