タイトル『三色菫』
そういえば、今日はアタシの誕生日ナンデスヨ。
ふと思い出したかのように言う喜助。
ホントウかよ。言葉とは裏腹に、何か企んでいるような目してから。
本日12月31日。大晦日。それは元一二番隊隊長、現浦原商店の店主の誕生日だった。私とヤツとは所謂腐れ縁。あちらとこちらを行き来することの出来る存在。そういう家系に生まれついた。それ自体は別にどうでもいい。私に不満はない。ただ悔いることがあるとすれば一つ。
こういう家系だからこそ、アイツと出逢ってしまった。なんで、どうして、なぜに!
知り合ったからいって、付き纏われなければならない!
「さ〜ん、今日はこんな商品を仕入れてくれませんかね?」
そういってヤツの示した商品は。
「無理、これ一番人気のチャッピーじゃない。いまのところコレが精一杯よ。」
そういって渡したのは2番人気のソレ。
「ん〜、ざんねんっすね〜。」
嘘付け、そんなに残念そうじゃない。飄々としたとこ男を下から見上げる。
「ん?なんっすか?そんな上目遣いで見上げて。アタシを誘ってるんっすか?」
「違うわ、ぼけ。何その自意識過剰さ。わけわかんない。この体勢なら見上げる形になるに決まってるでしょ。」
そう、私は荷物を卸している最中。よって屈み気味。立って見下ろしている形の奴を見上げる形になるのは当然だ。
「そうっすか?仮にが立ち上がってもアタシを見上げることには変わりないっすよ。」
「失敬な!!ちゃんと身長150はあるわ!!」
「ああ。たしか153でしたっけ?」
「ちがうわ!!153.5だ!!」
大してかわらないっすよ?と言いながらヤツは私を見下ろす。その瞬間が大嫌い。全てを見透かしたような、余裕そうな面が大嫌い。
私はこの男が大嫌い。そんなときヤツは言ったのだ。
「アタシの誕生日12月31日なんすよ。」
それからはその日を意識せずにいた。そうしてその日を意識の底に沈めていた。ヤツもそんなことあれ以来なにも言わなかったのに。なのにこの状況。ヤツは言った。私の目の前で。
「そういえば、今日はアタシの誕生日ナンデスヨ。」
折角忘れかけていたのに。
しかも今回は前回とは違う。私も荷物を卸していないし、ヤツも注文でこっちにいるわけでもない。
「だから、何?」
「イエ、ちょっとは覚えていてくれたりするのかなあ、と思いましてね。
ねえ、くれませんか?誕生日プレゼント。」
「図々しい。」
一言で下さないと、
この男に取り込まれる。
この手の男は間違いなく、こちらが激情を表せば相手の思う壺。
だから冷静に。
対処しないと。
そう思っているのに、
「ねえ、覚えているんデショ?」
アイツが近づいてくるのがわかる。手が、頬に触れる。
決して速いのではない。むしろ遅いくらいで。なのに、
どうしても、
動けない。
手が頬をなぞる、そのまま唇に触れる。
「言って。」
「帰れ。」
私の口から出た言葉は、拒絶。だって、私はこの男が、
「私は、お前が嫌い。」
そう、嫌い、嫌い嫌い、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い
キライ。
「キライ。」
「う〜ん?ちょ〜っっと傷つきますね。
でも、それはホントウなんですか?わたしにはそうは聞こえないんすけどね。」
嫌いよ、嫌いなはずよ。こんな男。こんなへらへらしてて本心のわからない男なんて。
なのに、
どうして、
こんなもの用意しているの?矛盾、してる。
離れていくヤツの手を見ながら胸元に忍ばせたものに触れる。
そっと、
気にしない、と言いつつ思いつつ、
そういうことを建前にして意識していることが本心で。
もう何が何かわからないのが今。
ああ、そういえば誰かが言っていた。自分のことが一番わからないって。だれだろう。
「コレくれるんっすか?」
「……」
見られない。だって、こんなの受け取ってくれるかわからない。
「良い根付っすね。」
差し出したのは三色菫の根付。いつも扇子を持っているヤツに。
なんども眺めすがめつしているヤツ。その様子を直視できない私は、
ひょっとして女なのかもしれない。
「ねえ、知ってます?三色菫の花言葉?アタシもう一つ欲しいものが欲しいんですよ。」
ああ、私は捕らえられたのかもしれない。この男に。
「アタシの名前呼んでくれません?一度も呼んでないでしょ?」
ね?と言いながら私に顔を寄せてくる。もう息の掛かる域。
いつもみたいに軽くかわせば良いのに。逃げれば良いのに。
できないなんて、癪だわ。でもいっか。こいつの誕生日くらい、すこしは素直になっても。いいのかな?
それもこいつの罠?
それに喰らわれてもいっか。もう、どうにもこうにも考えたくない。
「キスケ。」
三色菫の花言葉は
私はあなたを思う。
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