タイトル『とある二組の奇妙な邂逅?』
時はいつだったか、あまり定かではないが兎に角雨期を過ぎた頃だった。
毎年毎年、そのころになると雁国では小さな祭りが其処彼処(そこかしこ)で行われる。どこの州も示し合わせたわけでもないのに。
場所により規模も華麗さもまちまち。
だが、ここ関弓ではさすがに華美で華やかな祭りであった。そんな中、この国の王と王后がひそかに祭りに来ていた。
「まあ、さすがににぎやかですわね。しょ…風漢さま。」
「そうだな。」
いつもなら気にしない呼び方も市井で呼ぶとなるといつ、どこで誰に聞きとがめられるか分からない。
否、普通の市井のもの達ならば尚隆の名前を知らないのだから構わないのだろうが。万が一、ということもある。
王の側にいる女性で、官吏でもなく…となると自ずと彼女の正体もばれるというもの。
守られるものは何時いかなる時に弱点へと変わるか分からないものなのだから。
一方、そんなの懸念を十分に分かっている上で言い間違えて咄嗟に直そうとするを尚隆は微笑ましく見ていた。
(人目さえなければ、この腕のなかに、を…)
と内心かなりへの愛情表現を行いたくて仕方がない模様。しかし、尚隆は同時に気に掛かっていたことがある。
それは、
「風漢さま?いかがなさいました?」
尚隆が、関弓に降りてから時々どこかをちらちら確認している感じをは感じていた。それがこの付近になると頻度も高くなっていたので遂に聞いてしまったのだが。
「い、いや。なんでもない。」
「そのようには思えませんが?…あちらに何か御座いますの?」
そう言っての向かおうとしたところは、
緑の柱。
いわずと知れた妓楼。
やはりその付近も祭りに乗じてかなり賑わっていた。女将も呼び込みの男達も精がでている。並々ならぬ商魂根性を感じられるほどで。
尚隆もそのあたりを先程から気にはしていた。が、面と向かってそういう場所の印であることをに言うのも憚られた。
はもちろん“緑の柱”がなにを意味しているかなど知らないのだが。
確かに尚隆には以前通っていた経歴がある。そして、そのときの馴染みがいないとも限らない。実際先程から妙な視線が纏わりついている。
断じて、決して、誓って言うが、今は通ってもいない。まあ、情報収集になら利用はするがそういう意味であの場を活用したことはを娶ってからはない。
が、余計なことを知られての逆鱗に触れることは避けたいもの。
よって、はしゃいでいるを見るのも愛らしく楽しみたい気持ちが大きいのだがもしがそちらのほうへ興味をもったら、という心配要素もあり内心冷や汗が出てきている尚隆だった。
兎に角の注意を違うところに向けようと視線を逸らしたところに、髪飾りの露天が出ていた。
「い、いや、その。
ああ、
あの店に行ってみないか。」
「??まあ、きれいなものが一杯ですわね。」
なんとか注意を逸らせてふうとため息をついたのだが、どこからか喧騒が聞こえる。大方この祭りに羽目をはずしすぎた者たちの仕業だろう。
なんとかそれを止めようにもそんな場面をには見せたくない。
そんな逡巡をは察してか
「風漢さま、いってらしゃって下さいな。はここでお待ち申しておりますわ。」
「……すぐに戻る。決してここから動かぬように。良いな。」
どこか後ろ髪引かれるような思いでその場を駆け出していった尚隆。
尚隆が去って僅か後どこからともなく、の背後から腕が伸びてきたのだった。
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「まったく、こういう祭りになるとどうしてああも些細なことで…??っ!!!?」
尚隆が騒ぎを収めて戻ってみればそこには待ち人の姿も痕跡もなかったのだった。
「いったい、ここはどこなのでしょう?」
思わず首をひねり店内を見渡す。は尚隆を待って露天の商品を見ていたのだが背後から肩を叩かれ、尚隆からの伝言を受け取ったのだった。
『お連れさんから伝言だ。あっちの店で好きに食って待っていろ、と。』
その男の指した場所は先程から尚隆が気にかけていたところで、なるほど小料理店だったのか、と納得してそちらに付いていったのだが。
どうもおかしい。店に入ったとたんに嫌な視線が絡まってきた。卑猥なような粘つく視線が。を連れてきた男も奥のほうへ行ってしまったのでどうしようもなかった。とりあえず、ここから出て先程の露天に戻ろう。そう決心し立ち上がると数人の男がの周りを囲んだ。
「なにか御用でしょうか?」
「“御用でしょうか”だとよ。どうよ、この女にしねえか?」
「祭りに合わせて女も奮発ってか?」
「いいんじゃねえの。たっぷりと相手してもらおうじゃねえか、なあネエチャン?」
男の手がの頬に触りは男達から発せられる気配とその手に触れられたということから鳥肌が立った。嫌悪感からだ。
嫌な感じが、する。それは、の女性の部分からの警告音。逃げなくては、と頭は思うのに体は動かない。
「震えちゃってるぜ。まあ、そんなのも最初だけだ。売られた娘なんてここにはたんまり居るんだからなぁ。」
「!?」
その時、はここがどういう場所なのかはっきりと悟った。
妓楼、であると。では先程の男は?
尚隆の伝言?そんなことはあるはずがない。一体どうすればよいのかには検討もつかなかった。
男達の手はに触れてくる。どう状況を打開すればよいか分からず、はぎゅっと目を瞑った。
ぱしゃん
僅かな水音と顔にかかった数滴の水。
「お客様、申し訳ありませんがその方はまだこちらに勤めてはおりません。別の娘をお呼びしますのでご勘弁ください。」
目を開けてみてみればそこには水に濡れた男達と、それをかけたらしい男の子。どうやら店の下男らしい。
男達は自分達に何が起こったかを理解すると憤慨し、一人の男が下男に掴みかかろうとした。
が、その下男はどこから取り出したのか小刀を鞘がついたままであったが男の喉元にぴったりとくっつけていた。
「もう一度申し上げましょうか。」
明らかな威嚇、男達は怯みそのまま立ちすくんでいた。下男はを店の奥に連れて行った。
「あ、あの!わたくし本当にここで働くつもりはありませんの!わたくしには夫が、おりますので!」
「うん、分かってる。大丈夫。今、朔が探してるから。」
「え?あの。」
「あの男、あなた連れてきた男。良く娘連れてくるけど、無理やりとかが多くて警戒人物。だから、あなたもそうだろうって、女将が。」
どうやら、この下男は自分を助けてくれるらしい。しかももう一人協力者がいて尚隆も探してくれているようだ。
ほっととりあえず安心すると、体の力が抜けてしまいその場にはへたり込んでしまった。
「大丈夫?」
下男はそっとの背中をさすってくれていた。そして、にある違和感が生じたのだった。
「?あなた、もしかして?」
「あ!いたいた!お〜い、連れ見つかったぞ!」
「朔。早かったな。」
「おう、すぐそこの露天で見るからに慌てふためいて殺気ばら撒いてる男がいたからなあ。分かりやすかった!」
「あ、あの?」
どうやら、後から来た少年は朔と言うらしい。しかも、会話の男は尚隆らしく
「さ、殺気?ですか?」
物騒な言葉がでてきておもわず言葉をどもらせてしまうだった。
朔と下男に引き連れられて露天のところに戻ってみると尚隆の周りだけ人が寄り付いていなかった。傍目には大して変わらないようにしているつもりなのだろうが、
それを押さえているためか逆に醸し出される雰囲気が人を威圧していた。
「尚隆さま!」
「っ!」
が、その態度も一度、の声が聞こえると気配ともどもどこかへ消えうせてしまうから不思議なもの。というより恐ろしい。
その二人のやり取りを見届けて朔たちはその場を後にしようとした。
「きゃあっ!」
去ろうとした下男がいきなり叫び声を上げ何事かと、朔もたちもそちらを見遣る。すると、を連れて行った男と絡んできて下男に諌められた男達が下男の襟首を掴みあげていた。
見た目が華奢な下男はやはり体も軽かったようで簡単に持ち上げられた。そしてそのため首が布で絞まり苦しそうにしていた。小刀を取り出そうとしたところその手は別の男達に掴まれていて
動かなかったらしい。
「!」
朔は駆け寄ろうとしたが、またも別の男に背後から羽交い絞めにされていた。如何せん多勢に無勢だったのだ。
朔たち二人に対し相手は四人だったのだから。
「よくも、よくも、よくもよくもよくもよくも!!」
「っか……ふっ」
を締め上げていた男はそのままもう一方の手での首を絞めに掛かっていた。
「っ!!」
もがけばもがくほど、朔の対する拘束は強くなり朔はただ見続けることしか出来なかった。
と、そんなところへ
「そこまでにして置け。女相手に情けないとは思わないのか。」
尚隆が喉元に刀を向けていた。先程のと同じく。ただ違うのは、鞘の有無。
「「「「!!」」」」
男達はその尚隆の動きに、と朔は言葉にそれぞれ驚いていた。
「ちっ。」
舌打ちした男はを思い切り投げ逃げていった。
「!?」
は地面に叩きつけられることを予想し固く目と口を閉じた。
どざああ、という衝撃がを襲ったが、それは予想よりも軽く恐る恐る目を開け確認してみるとの下には朔が下敷きにされていた。
「なっ、朔!」
「いっててて。いやあ悪ぃ、格好よく受け止めたかったんだけどなあ。」
「ご無事ですか?皆様。」
はと朔に駆け寄り、遅れて尚隆もその場に行った。
「ああ、さまお顔にお怪我を。女の子の顔なのにそんな。」
「え、あその。お気にな、さら、ないで…え?なんで?女ってえ?」
そう、下男の格好をし男装をしていたがは女であった。そのことを尚隆にもにも言っていないのに気付かれていたことには驚いた。そして、そのなかで唯一が女であることを知っていた朔も同様に驚いていた。
「まあ、それは分かりますわ。最初は、違和感でしたけれどそちらの朔さまがいらっしゃったときに確信いたしましたもの。
それに隠しても隠し切れないものですわ。そういうのは。ねえ、尚隆さま。」
「そんなものだろう。これで貸し借りなしだな。
さて、帰るか。」
「ええ。」
そうして二人は去っていった。残されたと朔は爆弾だけ投下して軽やかに去っていく二人に唖然とした目線を向けていた。
「なんというか、変わった人たち?だったなあ。なあ、。」
「……似たもの同士。以心伝心。でも、良いと思う。」
「そうだな、んじゃ、俺らも帰るか。」
そうして二人も帰っていった。まだまだにぎやかな、繁華街へ。
***おまけ****
「ところで、。」
「はい?」
「最後のほうは呼び方がもとに戻っていたな。」
「!!あら、まあ。どうしましょ。」
「くっくっ。」
本気で焦っているを楽しそうに、心底楽しそうに見ている尚隆。そんな尚隆にが気付くのはもう少し後。
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