Black dancer
ここはアメストリス国、南に位置するダブリス。裏道を歩く少年が一人。金髪金目のちょっと小柄な少年。少年は、長くした髪の毛を三つ編みにしていた。
彼は、史上最年少の国家錬金術師、エドワード・エルリック。彼とその弟、アルフォンス・エルリックはここダブリスに彼らの師匠を訪ねに来ていたのだ。彼らの師、イズミ・カーティスは
一応、肉屋の主婦だ。身体が弱いが、体術、錬金術、そして彼女の夫、シグとの仲睦まじさは何ものにも勝る。

さて、エドワードは歩いていた。いつもは弟のアルフォンスと一緒のほうが多いのだが、弟はシグの買い物の荷物もちに行っていたのだった。そこで、エドワードは図書館へ文献を探しに行っていた。
彼ら、兄弟の身体を元に戻すための資料を。彼らは、母親を生き返らせようと禁忌とされる人体練成を行ったのだった。しかし、それはやはり禁忌とされているものであった。
エドワードは左足を、アルフォンスは身体すべてを持っていかれてしまった。等価交換の原則の下。そして、エドワードはその原則に則り、弟の魂を鎧に定着させたのだった。彼の右腕を代償として。彼らはその失った身体を取り戻す手がかりを探して旅をしている。

ふと、エドワードは立ち止まった。何かが聞こえたような気がしたのだ。何か…声のようなものが。その、音源は路地から更に、外れたところ。エドワードは何となく行ってみようと思った。普段ならば、厄介ごとはご免という態度で飄々としていそうなものだが。何となく気になったのだった。

そうして、入り組んだ道を進み、薄暗い方へと行くとそこには一人の少女を囲むあからさまに柄の悪い男がいた。その場所は袋小路で少女は追い詰められた形となっていた。
「ねえちゃん、こんなところに一人はいけねえなあ。一人でいるってことは、俺たちみたいな男の相手をしてくれるんだろう?」
男の一人は決まりきった言葉をこれまた、決まりきった下卑た表情で少女に言う。対して少女は、意に介さないといった風であった。というよりも男たちの存在を無視しているという感じだった。
男たちは少女の反応が予想に反していたためか、または自分たちの何がしかの矜持が傷つけられたのか、一気に憤慨の形相になった。
「はっ、無視かよ。まあいい、付き合ってもらおうか、ああ?」
そうして、少女の手首を掴んだ。エドワードもこの展開を予想していたのか、そこに介入しようとした。少女を助けるために。
が、良くも悪くも両者の思惑は外れたのだった。少女の手首を掴んだ男は、気付くと仰向けに地面に叩きつけられていた。少女が男の手首を掴み返し、男の懐に潜りこみ背負い投げたのだ。
いかにも小柄で、対した力もなさそうな少女であったために他の男たちは呆然としてしまっていた。

そして、それはエドワードも同じであった。ただ、彼の場合は少し事情が違った。
(なんなんだ。こいつ。この型、まるで…)

男たちの隙を見逃すわけもなく少女は男たちを次々と投げていった。最後の一人になると、さすがに茫然自失としていられなかったのか何とか応戦しようとした。
少女の伸ばしてきた手首を掴み、後ろから羽交い絞めにする。所詮、男と女。根本的な力に差があるものだ。そう、考えて男はかなりの力を籠めていた。
一瞬、少女がうなだれたようになり体から力が抜けていったのが傍目にもわかった。男も少女が諦めたのかと思った。
すると、グきっといやな音がした。少女の男により後ろに持っていかれていた左腕が弛緩した。
そうして少女は男の顔面に裏拳をかました。
「ぐっ。」
うめいて前のめりになった男の少女は向き直りかかと落としを決めた。

一連の動きを見ていたエドワードは動揺を隠し切れなかった。最後のかかと落とし以外は、いつも見慣れている動きだったからだ。見慣れているどころか、いつでもその動きに翻弄されて負けているのだ。弟と共に。
(師匠みてえ。)
そう、イズミの動きと酷似していたのだった。少女は、はずした間接を元にもどし
そしておもむろに、男たちの財布を漁りだした。
「って、おい!スリかよ!」
思わず突っ込みを入れてしまったエドワード。それほど少女の動きは、自然だったのだ。
これが、エドワード・エルリックと彼女――の出会いだった。