タイトル『blackdancer2』
Black dancer 2
『って、スリかよ!』
そう言われてエドワードの方を向いた少女は、また昏倒している男たちの懐を漁ることに専念しだした。それは、エドワードの存在を空気のように見えないものとしたものだった。
元来、短気なエドワードはもちろん、
「人の存在を流すんじゃねえ!」
と怒りだした。
「…。」
ちらりと一瞥しただけで、少女はまったく意に介さなかった。
「っ、やめろって!」
エドワードは猶も男たちの財布を扱っている少女の手首を掴みなんとかやめさせようとした。
「なんなの、あんた。」
見かけに反したアルトな声で少女はやっとエドワードを見た。エドワードも少女の容姿を改めて見てみる。身長は160前後くらいだろうか、やや華奢にみえるが、先ほどの動きからみても明らかに鍛えられている。髪の色は黒でどこかの焔の錬金術師を思い出させた。印象的なのは彼女の目の色だ。深い緑、夏場の新緑よりも冬場の広葉樹を思わせる、そんな色がエドワードには印象的だった。
「離しなさい。」
「じゃあ、男たちの財布、元に戻せよ。」
「…あんたに関係ないでしょ。それに下衆なものから盗ってなにが悪いの。下衆な男が下衆なことに使うよりもっと有効に使用するだけよ。」
「確かにこいつらは最低なやつらなんだろうが…」
エドワードのセリフは途中で終わった。否、彼女は禁句を漏らしたのだった。
「お子様は早く家に帰りなさい。おチビ。」
ぷっつんと、いつもの如くエドワードの中で何かがキれた。
「だ〜れがいつまで経っても成長しない豆粒どちびか〜!!」
そういって、エドワードは咄嗟に少女の手首に力を籠め、いつもの如く怒鳴るのだった。
いつもの如く、相手はその勢いに圧倒される…ことはなかった。
エドワードは自分の視界が暗くなったのを感じ、続いて頭に衝撃が走ったのを最後に、意識は堕ちていった。
「…ん?」
「あ、兄さん。気がついた?」
「アル?ここ…」
エドワードが目を覚ますと鎧―弟のアルフォンスが気が付いた。そして、エドワードも見慣れた天井や部屋の風景に、ここが師匠の家であることがわかった。しかし、なぜ自分がここに居るかが分からない。
たしか、自分は図書館から帰る途中で…気になる音を聞き路地裏へ…そして、そこで女が、女が?
「あ〜〜〜〜っ!」
「ど、どうしたの?兄さん、いきなり…」
突然叫びだしたのだ、付き合いの長い弟でも驚くだろう。
「あのスリ女だよ!いや、追いはぎ女!あいつ、俺を…!」
と、途中で不自然にエドワードの声が止まった。否、正確には止められた。一足の便所スリッパによって。
「うるさいよっ!一体何を叫んでるんだい!」
そこに入ってきたのは、白い身体にフィットした白衣のようなワンピースを着た女性。髪は黒でおそらく長いのだろう。それをドレッドヘアにしており、一つに束ねている。
「師匠!」
そう呼んだのはアルフォンスのほうであった。兄のほうは、スリッパの当たった顔面を押さえていた。そう、彼女はエルリック兄弟の師匠である、イズミ・カーティス。ちなみにこの兄弟が恐れてやまない唯一の存在だ。
「ったく、女の子に気絶させられて、送られて、気がついたと思ったら叫ぶだなんて、情けない。」
ふうっと呆れているのかため息を付きつつ、頭をおさえる、イズミ。
「〜〜〜っって、師匠!なんで知っ…て…ってあ〜〜〜お前!」
やっと痛みから、回復したのか顔をあげたエドワードは本日、お目覚めから二度目の叫び声をあげることとなった。もちろん、イズミのスリッパが飛んできた。
イズミの後ろから現れたのは、先ほど男どもを相手にスリをしエドワードを気絶に追いやった人物で、
「うるさい!!あ〜も〜、すまないね。うるさくて。」
「いや、少し来ない間ににぎやかになったな、イズミ。」
「いやいや、手間のかかるばかりさ。」
「って、師匠!そいつ!」
そのまま和やかに談笑に入りそうなので、エドワードはあわてて介入した。
「ああ、この子は
・
。今日から数日、ここに滞在するよ。」
「な、なに〜〜〜!!!」
エドワード・エルリック、本日三度目の絶叫。今回は、イズミから側にあった時計が、
が醤油を投げつけたのだった。
「「うるさい!!」」
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