タイトル『Blackdancer5』

長い長い夢をみている。
分かっている。これは夢で、過去で、もう二度と会えないと。
コレを見た後は、後悔とかよりもそれよりも……

「気がついたかい??」
最初に目に付いたのは、見慣れない白い大きな天井。少なくともここは、イズミの家ではないことは確かだった。
「…こ、こ…」
どこだ?と聞くはずだったが思いのほか、声が出なかった。
それに全身に倦怠感と痛み、何やら頭もぼーっとする。
「病院だよ。あんたがうちに倒れこんでから3日は経ってる。」
イズミは苦笑しながらを見つめる。
「まったく、何がちょっと出かけるなんだか。ちょっとどころか、たいしたお出かけになってるじゃないか。」
これも苦笑しながら、だが分かるものにはわかる。このときのイズミの内心を。
「…、め。」
「ん?」
何か聞こえ、空耳かと思っていた。が、どうやらが何かいったらしい。しきりに口だけは動いている。
体をかがめ、の口元に耳を寄せる。




「あ、師匠。おかえりなさい。」
病院から帰ってきたイズミを出迎えた、アルフォンス。ちょうど彼も、おつかいから帰ってきたところだった。
「ん?ああ、アル。ただいま、うちのひとは?」
どこか心ここにあらずなイズミの様子に疑問を持ちつつもこたえるアルフォンス。
「シグさんなら…」
「どうした。」
アルフォンスがすべてを話す前に当の本人、シグがひょっこり顔を出した。シグはイズミの夫である。が、その容姿はがっしりと筋肉質で背丈も高い。
ちょうどアルフォンスの鎧の丈ほどなのだ。しかもその顔も、いかつい。肉屋の店主というよりもどこかの取立てやのほうが似合いそうだ。また、この顔ゆえに
子供たちから遠巻きにされいつも悲しい気持ちを味わっている。そして、この筋肉ゆえに某筋肉命の少佐に気に入られるのはまた、別の話。
「ああ、あんた。実はねをこっちに連れて帰ろうと思うんだよ。」
「えっ!?」
驚いたのは、その場で聞いていたアルフォンスだけだった。シグは無言でイズミを見つめ(彼なりに驚いているのかもしれないが)、
が気づいたんだな。」
と確認を取る程度だった。
当然、疑問に思うはずの医者の許可や、反対などは一言もしなかった。その代わりというわけでもないが、アルフォンスが意見する。
「師匠!良いんですか、そんなこと。だってさん、まだとても自宅療養なんて…!」
素人目にみても、の怪我はひどかった。前から見れば、切り傷がめだつ。これはまだ擦り傷程度のものだがひどいのは、背中の傷。
斜めに大きく、深く切られていた。血まみれと、思っていたのはほとんどがそこからの出血であった。
また、腹には鬱血の後があり、それはどう見ても殴られたというよりも鈍器か何かで突かれたかどうかした、傷であった。
「アル。がな、言うんだよ。」
悲しそうに、でもどこか慈愛に満ちた表情で言うイズミ。この表情をアルフォンスはどこかで見たような気がした。

「『帰りたい』ってね。」

(ああ、そうか。あの時の表情だ。僕たちの告白のときの。包み込んでくれたときの)
そして、イズミは視線を壁に向ける。そして確認のためにそこに向かって言う。
「いいね、エド。」

「……師匠、その前に聞いても良いですか?あいつ、俺たちのこと気づいてますよね。」


その日の夜にはイズミ宅に移されるようになった。
それから数日は、の体調は決して良いというものではなかった。の負った傷は熱を持ち、二、三日は高熱が続いた。
それにときどき。そうときどきではあるのだが、がうなされていることがあった。
そのことについては、家のものは見てみぬ振り、聞かぬ振りを通していた。
あのエドワードでさえも何も聞かなかった。


の体調も何とか回復に向かっていたある夜。その日の夕食時にそれは起こった。

いつものように皆が夕食をとっていた。その日も普段と同じように、肉がメインというほど山盛りだった。
「エド。たくさん食え。」
シグにガシガシと頭をなでられ、内心は
(ち、縮む!)
と冷や汗をかいていたエドは、何かのうめき声に手を止めた。
「?兄さん?どうしたの?」
食事の手が止まった兄を不振に思ったのだろうか、アルは話しかける。
「いや。……また、うなされて…!!」

まさに絶叫とでもいうのか。家中に轟く声が響いた。そしてそれは良く知っていた声であり、最近は少々うめいていることのあった声。

!!」
逸早く、行動したのはイズミであった。そしてのいる部屋に駆けていく。それに続くのはエド、アルであった。
シグは何やらメイスンに言伝をしてからの部屋に向かった。
 
部屋の中は特に変わりは無かった。そう、の寝ているベッド以外は。
そこでは暴れるを押さえつけるイズミの姿があった。の両腕をイズミが拘束しようとすれば、足がイズミの腹に飛んでくる。それを避ければはどうにか起き上がってベッドから落ちそうになる。
完治していない背中の傷から、血が漏れていることに最初に気づいたのはいったい誰だったのか。
「師匠!背中から血が!」
このままでは拉致があかないことは明白。
パンッ、という音とおもに、光が部屋を包む。
エドワードが側に落ちていたシーツを一旦、分解しそれをの両腕の拘束具として練成したのだった。
それでも暴れるは今度は両足を使っていた。そこはイズミにとりおさえられ、なんとか身体は押さえつけることができた。
が、極度の興奮状態は変わらずで叫び続けていた。
「兄さん!このままじゃさん、舌かんじゃうよ!」
「ちっ!ったく!」
大口を開けまさに舌に歯が降りようというそのとき

がっきん

という聞きなれない金属音がした。
「っこのばかが!」
エドワードは自分の右手をの口に入れ即席、猿轡をしたのだった。

「え…ど…ふぁーど?」
は機械鎧のかたさと冷たさ、鉄の味、でどうにか落ち着いたようであった。
肩で息をするもの数人。嵐が去った直後の、独特な殺伐とした感じが部屋に満ちた。
そのうちにバタバタという足音とともにメイスンと医者が到着したのだった。

最初、医者はに鎮静剤を打つつもりであったが存外、落ち着いているようなのでそれは無しにして背中の傷のみ手当をして帰っていった。
そして、の部屋の中には家に帰ったメイスン以外が皆、そろっていた。
「……すまない。取り乱した。」
暴れたせいもあって大分、体力が消耗したのだろう。かすれた声では謝罪した。
「まったくだよなあ。怪我人のくせにあんなに馬鹿力!…俺の幼馴染みてえだよ。」
つっけんどんな口調ではあったが、苦笑しつつにいうエドワード。
「……何を見た。。」
「………」
怒っているかのような口調で問うたのはイズミであった。
「私は今まで、あんたがうなされていたのは過去の夢を見ていたからだと思っていた。でも、今日のような暴れ方はどうにも腑に落ちない。
あんた、何を隠しているんだい?」

が何かを隠していることは分かったいた。それは彼女が何も連絡をせずに急に家に訪れ滞在をすると言ったときから。
この子が調べているのが何なのかは予想はつく。でも、今夜のは異常すぎた。
「…私にもまだよくわからない。」
「っ!!!!」
「今までは昔の夢だった。でも、出かけて見たものが私には信じられない。」
「いったい、何をみ…」
「イズミ。人が化けたんだ。…父さんに、母さんに。」

「なっ!?」
この会話にまるで蚊帳の外であったエルリック兄弟だが人に化けるという言葉に反応した。そう、彼らは中央で会っているのだった。姿かたちを思いのままに変えられる、見た目は人間なのだがその能力は明らかに別な、そんな存在に。
「なんだい、お前たち。」
そんな兄弟の挙動不審に気づいたのかイズミは問いかける。それに興奮したように答えるアルフォンス。
「ボクたち知ってます!中央で!」
「見たんです。そういう奴らを。」


不自然に重い沈黙が部屋を包む。5分ほどしか経っていないはずだがそれよりも長く長く感じられた時であった。
沈黙を破ったのはだった。
「エドワードの手足の機械鎧、アルフォンスの空っぽの鎧。」

「「っ!!!」」


「イズミと同じ、なんだな?」
質問というよりも確認、だった。そうして、は語りだす。己の過去を。
「どうにも、探し人は似ているモノのようだ」
という前置きとともに。





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