タイトル『我が儘も、要求も受け入れる人次第で随分違うもの』
「おかわり。」
「はい、神楽ちゃん。新八もどう?」
「あ、ハイお願いします。」
「はい、どうぞ。」
一見どこにでもある朝の風景。
「お〜いおいおいおい。お前は何、我が家のように家事してるの。ちょっと銀さんびっくり。さっきとはぜんっぜん違うんですけど
この人。さっきまであんなに乱れてたのに、がふあ。」
銀時の言葉を皆まで言わせず、しゃもじで顔を打つ。
「あ〜あ〜、しゃもじがよごれっちゃった。洗わないと。こんなのでよそったら、ご飯から天パ菌がうつって大変なことに。」
「あ〜、洗ったほうがいいアル。」
「そうよね、移ったりしたら大変だしね。」
いそいそと、蛇口へ向かうに
「いや、ちょっと待て。この天パは病原菌か?性病並みか?おい!それの所有者である俺は一体なんだ!!」
「だまれ、病原菌保有者。」
「ちょ、ひどっ!」
「さあ、神楽ちゃんおかわりどうぞ。」
先程、目覚めた時からほとんど彼女達二人でのみ会話などが行われていた。男二人はほとんど蚊帳の外だったのだ。
「で?はなんで飯なんか作ってんだ?」
もう片方の男、新八に尋ねる。新八も一応、おかわりの有無を聞かれたりして会話に入っているようだったが、は新八を呼び捨てにしているところから
上下関係も知れようというもの。
「何でも一宿一飯の恩だそうですよ。」
「一飯?」
一宿はともかく一飯の意味がわからなかった銀時は聞き返す。
「え?昨夜、おごったんでしょう?さんそう言っていましたよ。」
「特盛の方へ言っておいた。あそこの会計はあなたもちね。」
どこから聞いていたのかが会話に闖入してきた。
「な、なに〜〜〜!?」
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「はああぁぁぁぁ、ったく、参っちまうんですけど〜、銀さん心身ともに疲労度マックスなんですけど?」
部屋の中には銀時とのみ。新八は買い物に、神楽は近所の公園へと出かけたのだった。
「だって、私、ここに連れてきてなんて言ってないし、あのままあそこに居ても自分で支払う気だったのに。目が覚めたらここじゃあ、やっぱり昨夜の分はお持ち帰りした
あなたもちが妥当でしょ?」
あのあと、銀時はすぐさま特盛のところへ行って交渉してきたのだ。何回払いにするかを。
「しかし、おまえはザルか、そうなのか?何なんだよ、あの請求額。」
一回払いでは足りないらしい。
「で?」
「あ?」
「依頼、来てんでしょ。真選組から。」
「まぁなぁ。お前、戻りたくないんだろ。意義がないように思えて。」
は銀時の座っている机のほうを向く。時間にしたらほんの少しの沈黙。銀時ものほうを向く。
「戻る。戻らないと。」
「必要とされていないのに、か?やめちまえ、そんなとこに戻るの。いっそ、ここに居たらどうだ?
お。いいじゃねぇか、それで。」
「っ何をいって!」
「情報を求められていないなら居る価値がない、そう思って抜け出したんだろうが。先のことも脱走と取られることもわかっていたはずだ。」
「っ。」
容赦のない、かといって責めるわけでもない言葉たち。淡々と、興味もなさそうに述べるため余計に突き刺さる。
は逃げ出した。居心地の悪さと、傾いでしまいそうになることに恐れを覚えて。
物心つくころからは情報を売って生きてきた。の元へ来るのも情報を求めたものたちのみであった。元々、情報屋はの母親である
葛葉がやっており自身が商いをする前からもその風景はには当然のものであった。だが、母親が居なくなって実際にやってみるとどうしても錯覚してしまうのだった。
情報のみが自身の価値であると。
それ以外に自身には価値がないかのような、意義も何もないような。
葛葉の居た頃は、は彼女に色々教えてもらった。相手の見極め方はもちろん、情報の真偽、風評のつけ方、仕事面は完璧に。
私生活でもちょうどその頃が攘夷戦争真っ只中であったために極普通の家庭とは違ったが。
それでもの話すことに耳を貸してくれたのは葛葉だけであった。その彼女が突如いなくなって、は独りで生きていくことを知った。
過酷な時期に、年端も行かないそんな時に。
情報を求めるものの中には、女であることを逆手に取られ無理な要求をされたことももちろんあった。
だれかを頼れば、自身の存在が相手の重荷になることを知った。裏切られることも知った。信じることを恐れ、相手が自分にどれだけの影響を与えるのかが怖くなった。
それでも
誰かに必要とされないのはあまりにも辛くて、生きていくのに苦しくて、人と関わりたくないと思う心もあるのに
独りは寂しくて。
相手に合わせるようになった。
それが葛葉の言っていた“鏡”の状態に近いことだというのは、気付いたのはつい最近だった。
呆然とどこか彼方を見ているを銀時は見つめる。何物も見逃さないように。
「それでも戻るってのは、そのでなきゃならない理由があるってことだ。
最初は全く分からなかったんだがな、昨日お前の言葉でわかった。」
「……」
「探してぇんだな。会いたいんだな。葛葉に」
「……」
銀時の言葉はの中に沈んでいった。染み渡るというのではなく、確かな重みを持って沈んでいった。自覚したくはなくてもどこかで求めていた事実。
会いたかった。葛葉に、母親に。だが、それと同時に危惧していたこともある。
「会いたくない、探したくなんてない。あんな人に。」
認めてしまえば、危惧をも認めることになる。それはまだ、怖くて。
「あんな……!」
「捨てられたかもしれない、そう思うのがいやだからなあ。」
の体が跳ねた。面白いくらいに。言葉も続けられず、ただ、その先を銀時の言葉を聞くのみ。
「捜し求めて、実際に会って拒絶されるのが怖いんだろうが。突っぱねていれば見なくても済む。」
「ああ、それとも自分が捨てられたことが確定されるのが嫌か?想像の中でのみ思い込んでいれば幸せだからな。」
「…るさい。」
「大人ぶっていても、やっぱ中身はおこちゃまのままか〜。」
「うるさい!!黙れ!」
「反発して逆上するのは、最も良くないって教わってるだろ?」
「っ!?」
『相手に余裕を見せられるからね。逆上しちゃだめよ。相手に対していつでも優位な立場にいる、それを忘れずに劣勢でも乗り切れるように。』
銀時の言葉と、葛葉の言葉が重なる。
「も、う。言わないで。気付きたくない。」
「……気付いていただろ?」
幾分、今までとは違い柔らかな声音になる銀時。は気付いてはいたが顔を項垂れ上げることができなかった。顔を見ることもできなかった。次に何を言われるか、怖かったのかもしれない。
だから、気付かなかった。銀時が、いつの間にかとの間合いを縮めてきていたことに。
「本当はどこかで知っていたはずだ。だから、なんとか繋がりを求めて情報屋を続けていた。
の名を捨てなかった。真選組にも居ようとしている。」
「……浅はか、と思うか。突っぱねて余裕ありそうに今まで振舞っていたのに、結局は母親からは離れずにいる。子供だ、と。あざ笑うか?」
気付かなかったのだ。この時既に銀時がすぐ側までいることに。目の端に黒いブーツが目に入るその時まで。
「子供が母親を求めて何がいけねえんだよ。そりゃむしろ普通のことだろ。」
さも当然のように言う銀時にやっと顔を上げた。
目の前にいる銀時。見上げて目を合わせると、逸らされずにいる。話をすれば聞いてくれる、受け入れてくれる、懐かしい感じがの中をよぎった。
「なんとなく。どこかでやっぱり、探したい、と思っていた。
でもソレをすんなり受け止めるには大人になりきれなくて、でも子供みたいに何にも目を背けていることはしたくなくて。どちらにもつかない、どうすればいいのかわからなくて。」
の言葉を否定するでもなく、受け止める銀時。
「何かに縋りつきたいのに、それは甘えているようで、相手に迷惑になるんじゃないかって考えてしまって。もう、どうしたらいいのかわからない。」
「どうしたらいいかわからない、か。俺にはお前がどうしたいのか、全身で叫んでいるように思えるがね。」
「??」
「独りになりたくないって、ず〜っと叫んでいるよ。」
が目を見開き、そして俯く。そこからは小さく「そっか。」という声が零れていた。
「さあて質問です。」
今までの会話の重さも気にもかけずに銀時は話し出す。
「俺の職業はなんでしょう?」
「……万事屋。」
「そう、なんでもやる万事屋銀ちゃんだ。の願いを叶えてやるよ。言ってみ?」
呆気にとられた。これが今のにぴったりの表現だろう。今まで、求められることはあってもそういう求め方はなかったのだから。
「ほ〜ら、早く言わないと銀さん、気をかえちゃうよ?」
全くそんな気配もない様子で銀時はの頬に触れる。その先を促すように。
誰かに何かを要求することはいけないことだ。期待するのもいけないことだ。
意に反したときに自分が傷つくのが怖いから。だから何も求めない。
でも、そのままじゃあ、いけないことにも気がついていて。だからこれが最初の一歩。
なんでも屋という職に“依頼”するという形での“要求”。
踏み出す、最初の一歩。
「が、…て。」
「ん〜?はい、もう一度。」
片手を着物の袖端に。
しっかりと握って。
「お母さん、捜して。」
これが今の精一杯の要求。
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