タイトル『人は愚かで悲しいナマモノ、なのか?』
三日後。銀時たちは、真選組の屯所に来ていた。しかも、滅多にありえない光景、いつもは門前払いが相場のこの連中が中に通されて、しかも、お茶まですすめられている。
と、いっても、その部屋はに宛がわれた私室であるのだが。
「で?見つかったの?」
「あ〜、銀さんってば有能だから、即、解決よ。」
「「……」」
「そう。じゃあ、連れて行って、そこへ。」
「「……」」
「おう、いいぜ。ついでに俺とも布団の中で……」
「ハイ、教育的指導。」
「「……」」
いつもならば、この会話で突っ込むはずの新八も、口さがない神楽もなぜか今回は、沈黙を守っている。
「どうしたの?二人とも。黙り込んじゃって。」
「姉御、この依頼……」
「さん、あの……」
やっと言葉を発したかと思えば、なにやら歯切れの悪いもの。しかも、とは二人とも目もあわせない。
その様子をはしばらく見ていたのだが、おもむろに立ち上がる。
「近藤さんたちに出掛ける事を言ってくる。門のところで待っていて。」
廊下から聞こえてくる足音が遠ざかったところで二人は声に出す。
「銀ちゃん、間違いないアルカ?」
「ああ〜。」
「銀さん、本当に連れて行くんですか?」
「それが、あいつの望みなのよ。」
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「で、連れてこられたのはここかよ。」
「う〜ん、なんていうかここは、
寺、だな。」
銀時たちに連れられて来たのは、小さな寺。その門の前には、銀時、新八、神楽の万事屋メンバーに、と真選組の土方と近藤。
「つーか、なんでお前らもここに来てんだよ。俺たちは聞いてませんよ。そんなこと。」
「ふん、この女が不審な行動しないように、だ。何か、文句あるか?」
「とし、まだそんな事を言っているのか。は俺たちを裏切ったりしないぞ。」
「いや、だから、近藤さん。」
「……と、このように論が全くもって進まないから、連れてきたの。」
が失踪してから、真選組に戻った日。それ以来ずっと、この論争が続いていたらしい。確かに急に居なくなり、戻ってきたと思ったら、何も報告しない。
しかも真選組にとって良くないこと、という不穏な発言も出す。
終いには三日待て、という。
この状態では土方の反応のほうが普通なのだ。それでも、トップの近藤が何の根拠も示さずに、信頼しきっているため水掛け論が延長していたのだった。
「ふ〜ん、まあ、俺は依頼人がそれでいいならいいけどな。」
銀時はちらりとのほうを見る。といってもの後姿しか見えないのだが。
というのも、を案内すると当の本人が、門前でぴたりと歩みを止めてしまったのだ。後ろから見ると、それは確かに仁王立ちなのだが。
(その心境は如何に、だな。あいつらでさえ、ここを行きとめて以来口数が減ってまってるしな。)
顔をしっかりと上げて、否、それはやや上向きで、背筋を伸ばしている。
「間違い、ないのね。」
「ああ、ここの中にいる。
かつて『鏡の“葛葉”』と呼ばれた、お前の母親
その、墓がな。」
「墓。」
「そうだ、無人仏ってことになっている。表向きはな。」
「……」
“墓”だの“無人仏”だのという単語に、今まで水掛け論の最中だった二人は、銀時たちのほうへ意識を向ける。新八と神楽は、痛々しい顔をの後姿に向けていた。
「ってちょっと待て。『鏡の葛葉』っていやあ、あの。」
「そうだ。かつての攘夷戦争で真っ二つに割れていた時ですら、中立を守り敵を作らずにいたあの、情報屋だ。」
「それが、そいつの母親だってのか。」
「幕府が、何故、私に賞金をかけていたのか。それは私が娘だから。私、情報屋をやっているとき苗字は言わなかった。母も、そう。
目印になっていたの。っもし、万が一、どこかからその情報が流れたら、その流れたところにどちらかが居る、と。
私は、戦争後いなくなった母を探した。情報をあつかっていても、今まで見つからなかった。“” の名も。
あの、手配書を見るまでは。」
万事屋に沖田が持ってきた手配書。生死を問わずの賞金をかけてまで、探し出さなければいけないのは、幕府がを知っているから。
葛葉の娘、だと。どうにかして知ったから。
煉獄艦のことが発端。だが、苗字の件は、違う。これは直接、葛葉からしか聞き出せないこと。
「だから、葛葉に会うには幕府からの情報が流れやすい所に居たほうが都合が良かった。どうしても会いたかった。
でも、
今まで、ずっと、避けていた可能性もあった。
もう、この世には
いなっ……」
の言葉が途切れる。後ろからしか見えない。変わらない背中。泣き崩れる事も、背を丸めてしまうこともしない、できない、
それでも、今にも折れてしまいそうな。真っ直ぐな背中。
「真選組には、その情報が欲しかった。でも、近藤さん。あなた、優しすぎた。
苦手、だったよ。その優しさが。情報なんて関係なく、私を見てくれたことが、私を居た堪れなくさせた。
なのに、嬉しくてよく分からなくなって、だから、逃げ出したの。ごめんなさい。」
「……」
「……ふん。」
「土方さん、あなたの警戒心は必要だった。私は葛葉の娘、その事実これから真選組に汚点を……」
「んなこたあ、関係ねえよ。俺たちは近藤さんについていく。
それに今更、そんなもんが増えたってかわりゃあしねえよ。」
「そうだぞ、。いつでも帰ってきていいんだ。だから、
先に行って、待ってるぞ。」
そう言って、土方と近藤は屯所のほうへ帰っていった。二人とも分かっていたのかもしれない。
今、ここに自分たちは居てはいけないのだと。
そう感じたのは、こちらの二人も一緒のようだった。
「はっ、ゴリラのクセにかっこつけてるネ。姉御、無理して向こうに変える必要ナイネ。万事屋に来るヨロシ。アイドルオタクのダメガネの冴えない突っ込みもボケも
飽き飽きネ。」
「ちょ、何そのつながり、意味わかんないよ!!」
そうして、この二人も万事屋のほうへ向かったのだった。銀時に全幅の信頼を残して。
遠ざかる近藤たちの足音。
遠ざかる神楽たちの喧騒。
聞こえなくなって、風の音が聞こえ、それでも沈黙は破られない。
それでも重苦しい空気は、ない。
両者は、何も、しゃべらない。
ふと、沈黙は破られた。土を踏む、足音で。
じゃり、じゃり、じゃり。
ゆっくりと、一歩ずつ、確実にの背後に近づく。
その音が聞こえているのは確かなはずだが、は微動だにせずに立っていた。そうして、真後ろに銀時が着いたとき、不意にの身体が崩れ落ちた。
「ずっと、避けていた。情報屋という繋がりを求めていながら、どこかで知っていた。コレだけ、探していないのなら、って。
それでも、今まで、寺とか、墓とか、探さなかったのは、
さがせなかったのはっっ……」
地面に座り込み、顔を覆っているの肩に銀時は触れる。
掌越しに、震えているのが伝わる。
その小ささも。
「どうして欲しい?泣き場所が必要か?それとも、」
「こういう時、男の肩かりて泣き縋っているのが、多分、女なんだと、思う。そういうの、男が好むのも知ってる。でも、私にはできないの。
そういうのは、甘えているみたいで、自分を甘やかすみたいな、ことはしたくないの。」
「ああ〜。いいんじゃね、そういうのも。で?」
「が」
「が?」
「がんばれ、って言って。
お母さんの、所に行きたいのに、体動かないの。立ち上がって行きたいのに。だから、お願い。がんばれって言って。」
「……」
「それが、無理でも虚勢でも、私は会いたいって、思ってきた。会おうって決めていた。
私、自分で決めたことに逆らうのは、いやなの。」
「強がりなやつだな。そんなちっこいのに。肩も背中も背負いきれないくらい、重い荷物背負って、それでもまだ、背負うのか。」
「っ!?」
一人で。
自己満足とも自己犠牲ともいえる、その姿。不器用に、要領も悪いながらにそれでも、背負い進もうとするその姿は、なんと、
愚かなことだろう。逃げる道もあるのに、楽な道もあるのに、苦しい道に挑むその姿はなんて、
痛ましいのだろう。
愛おしいのだろう。
銀時の腕に包まれた身体は、華奢ではないが、小さかった。筋肉も、あった。だが、小さかった。
鍛えていようとも、筋肉のつき方は男女で違いがあるものだから。
小さくとも進もうとした虚勢を張ってでも、耐えていたその姿を包む。そして、言葉をかける。
「がんばれ。
んで、崩れそうになったら後ろ向きに、な。いつでも受け止めてやっから。」
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