タイトル『恋情とか、色気とか、そんな空気も雰囲気もあったものじゃない』
あの日から一週間。
あの、墓前での出来事から一週間。
私は真選組にいる。以前よりも増えた仕事が、真選組内での信用度が増した事を示している。私は結局のところ、真選組預かりということになった。
普段の生活は、変わらずただ、情報に関しては真選組にのみ流用するようにとの、お達しだった。けれども、それも必要がなくなった。一番上の立場にいる近藤さん自身がそれを望まず、
私自身のしたいように、というのを望んでいたからだ。だから、私もしたいように。勘定方にいる。
『がんばれ』
あの言葉が、今の私を支えている
と思うとかな〜〜っり癪に障る。が、少なからず影響があったわけで。
なんでかしらねえ、あのやる気がなさそうなのに妙にしっくりと私に澄みわたって行った。しかし、言ったのはあのセクハラしまくりの男なわけで。
「ほら、次はこの書類だ。ぼやぼやするなっ。」
「!!はい。」
そうだった、今は決算で戦場だった。電卓を弾く。頭の片隅に、澱のような淀みを押しやって。
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「銀さん、仕事これで二週間連続で無いんですけど。もう、この家塩しかないですからね。」
「あ〜〜〜。糖分〜、と〜う〜ぶ〜ん〜。」
「いや、唸ってもないものはないですから。」
万事屋では寺で別れた後もいつものように過ぎていった。ただ、帰宅した銀時が一人だけであって、がいなかったために
神楽に半殺しの目にあったのは、まあ、仕方ない事だろうが。
しかし、銀さんは一体何を考えているのだろうか。個人的な感想としては、銀さんがさんに興味を示していたのは確かだと思ったんだけど、
肝心のさんがどうなのかがよく分からないんだよな。ていうか、あのいかにもしっかりしてそうな人がこんなちゃらんぽらんにってのも、また考えられないし。
「っよ。」
「いたっ。」
なんだか頭に鈍痛が。
何だ?
「って、木刀!?洞爺湖!!何すんですか!!いきなり!」
「んあ〜?何かおまえ、俺に失礼な事考えただろ。」
「嫌、むしろさんに失礼な事考えたよ。」
「あ〜あ〜、いいからお前、仕事探して来いよ。」
「はいはい、分かりましたよ、この駄目天パ。」
玄関で扉を開け、出ようとしたところ何かが過ぎった。え?と思う間もなくぶつかってこけた。その際、何か感触があったような気はするが、
「あ、スイマセン!大丈夫で……ってさん!」
「あ。新八、久しぶり。……ところで、いる?」
誰を指しているのかは、丸分かりで、
「銀さんなら中で腐ってますよ。」
座り込んだままで中を、頭で指す。そんな時に、
「で?お前らはいつまでそこで、座り込んでんのよ?しかも新八、お前、の手踏んでっぞ。」
ああ、それがさっきのかんしょ……
「って、どええええええ!!す、すいません、さん!!ああ、血が血が!」
「あ〜平気よ、これくらい。むしろ平気じゃないのはこっちのほうかも。」
と言って、差出されたのはケーキの入っている箱だった。
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この部屋に入ったのは実質、3回くらいだろうか。何だかいつでも、雑然としているイメージがある。
新八を追い出して中に促されたけれど、私としては玄関でお礼を渡して帰るつもりだったんだけれど。何の因果か、新八に踏まれた手から血が出たため
代わりにこの男が消毒している。
結局、私の中の澱ははっきりとしないままで。ここに来たのだけれど、なんだか落ち着かない、というか居心地が悪い。
「よし、ま、こんなもんだろ。」
見れば消毒が終っていた。絆創膏を張るまでもないみたいなのでそのまま乾燥させておけば直に良くなるだろう。
「ありがとう。
で?何で手は放してくれないわけ?」
「ん?そりゃああれだ。お子様Sもいないわけだし、ここは一発、」
「放さんかい!!」
とりあえず、反対側の手で殴りを入れておく。
「ぐはっ!! っふ。」
「あ!?」
「骨を折らせて肉を断つだっけか?」
殴った反対側の手も取られてしまった。てか、ちゃんと殴られてから取られている当たり、何だかなあ。私、こんなに隙が多かったけ?
「いや、違ったような気がすんなあ、なんだっけか?」
一向に放す素振りを見せない。というか、これって、所謂貞操の危機なんじゃないだろうか。
固まって見ていると、掴まれた両手を起点に力が篭められていく。
「え、ちょっと、なんか、あの。
止めない。」
背後にはソファーがあるから、こういうことをしているんだろうけど。なんで、この男は私に対してこういうことをしようとするのだろうか。
「…っ」
「……ま、ま。ちょっとおとなしくしておこうね。銀さんほら、優しいから、優しくするから。」
「せんでいい!!放さんかい!!」
膠着状態が続く、妙な体勢のせいで腰に負担がくる。でも、ここで力を抜いてしまうとやばい気がするし。
別段、貞操に関して今まで危機感がなかったわけでもない。むしろ警戒していた。今までの客には私が女だとわかるとこういうことをしようと
考えたものも多数いた。
だから、隙なんて見せなかったし、今回もそのはずだった。のに。
いや、むしろ今の状態を打破する方法は何かないのか。
いやいや、私はこの男と肉体関係なんて望んでいない。
いや、それなら最初から隙なんて見せないし。“鏡”のままでいたはずなのに、この男には出来なかった。
なんで、だろう。そういえば、葛葉は言っていた。
『“鏡”になれなかったら、その相手は本当だ。』と。
では、本当ってなんだろう。
ああ、そうか。ずっと澱のように感じていたのはこのことだったのか?
「ふ、っく、あははははははは。」
急に両手の力が抜けて、圧迫感も失せていた。代わりに聞こえてきたのは、目の前の男による爆笑。
「冗談だ、じょう〜だん。いっくら銀さんでも、無理強いはしねぇって。ま、俺がお前にそういうことしたいってのは本当だけどな。」
冗談。
そういえば、この男にはこの手のことばかりされていた。胸を見られ、触られ、揉まれ、キスまでされたんだっけか。
「ん?お〜い、?」
それも、これも、全部、冗談?
今まで考えなかったが、なんか、すっごい失礼じゃないか。今だって、押したおしておいて冗談?
「〜?」
目の前にそいつの顔がある。なんか無性に腹が立ってきた。いつも、いつも、掴めないのに自分のしたいことはしていって、
「おい、どした?」
私のできない事はしてくれて、
「痛むのか?」
私の欲しい言葉をくれて、
「おい?」
「ふっざけんな!!」
「ぅおわぁ!!なんだよ。」
「あんたは、いつもいつもいつも、自分のしたいことをして、私のペースを崩して、」
「お、おい。」
「なのに、人のことは丸分かりで自分は読ませないってなんだ、それ。私ができない事も、言ってほしいこともしてくれて、お礼しに来たのに
それすらも言えないってなんだそれ!!」
「……」
「鏡になんてなれやしない。本当のところなんてわかりゃしない。」
「……で?」
「私ばっかり、ペース乱される。葛葉の言う、本当の相手ってのもわかんないし。あんたも、わかんない。」
項垂れて、直視できない。
また、だ。またペース乱して、冷静になんてなれない。なんで、こいつだけ。
「あのな〜、俺は基本的に相手からの依頼しか受けないし、受けたら受けたで真剣にやってるし。誰のでも、な。」
依頼者、か。どこにでもいる。
「お前は依頼者が女なら、ああいうのをいつもするのか。」
どこか、落胆している自分がいるのを覆い隠す。あまりに、自分の望んでいる事ばかりしてくれるから、勘違いしてしまうところだった。
特別、だと。
「しねぇよ。訴えられるのは嫌だしな。しかもあの葛葉の娘となりゃあ、な。」
葛葉の娘。
あの?
「会ったことあるのか。葛葉に。」
「ああ、ヅラにくっついてた時にな。」
「葛葉の娘だから、か。だから手を尽くしてくれたのか。私の依頼を受けたのは私が頼んだのでなく、葛葉の、娘だからか!!」
項垂れていた顔を男に向ける。単なる依頼者でもなく、女でもなく、娘だから、これだけしてくれたというのか。
情報売り渡している時でも、時々間違われた。葛葉に。
「なら、一目見てわかったろうな。私と、葛葉は瓜二つだからな!!」
目の前の万事屋は渋い顔をしながら、がりがりと頭を掻いている。激昂している私に、それは神経を逆なでする行為だった。
「なんとか……!!っ、な!!」
腰を引き寄せられ、抱きしめられる。
「放せ!!」
「いいから、聞けって!!そのまま、ゆ〜っくり、銀さんの話聞いとけ。話し終わるまでどうせ、放すつもりはねぇんだ。
ギャーギャー言ってると、無理やり塞ぐぞ、口!!」
激昂したせいか、息が乱れる。どう足掻いても男女の力の差は大きい。ゆっくりと力が抜けていく私とは違い、逆に力を篭められる。
苦しいくらいに。
「葛葉には世話になった。お前が葛葉の娘だとは、実のところすぐには分からなかった。似ているっていうほどでも、なかったからな。」
分からなかった?
似ているわけでもないの、か?
「実際思い出したのは、あの回し蹴りの時でなあ。ありゃあ、葛葉仕込だってのがわかったし、葛葉本人からも聞いてたしな。
自分の娘は、それはそれは回し蹴りが上手いってな。」
そんなことは一言も言われたことがない。情報提供の見極め方と鏡のことしか。
「だいたい、俺らはなあ葛葉に忠告?いや、ありゃあ脅しだな。娘に手を出す時に半端な覚悟だったら痛い目みる、ってな。
実際、本気だったのに中途半端と思われて俺は何度か痛い目見た。そういう何かをお前、葛葉に聞いてんじゃねえか?」
「『“鏡”になれなかったら、その相手は本当だ。』って、言われてた。何が『本当』なのか、わからないけど。」
「わからねえか?」
抱きしめられていた手が、腰に回されていた手が、両頬を包む。
「“鏡”になれねぇってことは、自分をみせてるってことだろ。何の衒いもなく、ありのままを、な。」
ありのままの自分、相手がどう思うかという探りあいもなく。それはそれで、
「怖い、な。大事だと気づいた時にはもう、全部見せてる後、か。」
「まあな。でも、受け止めてくれるヤツだっているさ。泣きたいときに縋りつく事もできない、可愛くないと思ってる奴にだって、な。」
縋りつけないって私のことか。
「そうかな。」
「ああ。俺はそういうとこが……」
「そういうとこが?」
「あ〜、そのだな〜。え〜、あ〜。」
なんか、この距離ってキスしそうなくらいの距離なのに。
肝心のところで詰まるんだから、なんか、
「色気も、雰囲気もあったものじゃないな。」
「ぐっさあ、銀さん傷ついた。心にでっかい傷がついた。もうお婿に行けない。」
本気で傷ついたらしく、がくりと頭を下げる。
ああ、でもこういうのも悪くない。未だ、この人に対するのが恋情かどうかはわからない。ただ、鏡になれない、本当の可能性のある人。
居心地のいい空間。
「私は、続けばいいなって思うよ。こういうやり取りとかがずっと。なんかね、そんな気分。」
「え?色気のない空気が?」
「ん〜?それも含めて。長く続く関係でありたいかな。」
「ずっと、か?」
「できるなら。」
「??」
凝視されてちょっと戸惑う。
次の瞬間、触れるもの。濡れた感触。これは以前にも覚えがある。これは。
「な、ちょ!また!」
「ん〜、なんか口説かれた感じがした。」
「口説いてない!!あれは素直な感想だ!!」
「へ〜、素直なね。」
「なによ。」
「いやいやいや、難攻不落がちょっと攻略可になったみたいで、銀さん俄然やる気でたわ。いや〜、このままだとヤる気もでるね。」
は?って、ちょっと待て、何この感触。何か熱いのが下のほうにあたって。
「こんの、助平が!!不埒者が!!痴れ者が!!!」
とりあえず、今のところはこんな感じ。こんな付かず離れずの空気が変わるときが来る。
のかは未だ誰も知らず。
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