タイトル『どうやら、君には依存性があるらしい』

最初に出会ったのは、確かに偶然だった。印象は特になく、むしろその次に会ったときのせいで最初の印象なんて吹っ飛んだ。

 初対面にほぼ近いのに、胸触られるわ、揉まれるわ、キスされるわ。
 なのに、

 付かず離れずの空気が今は一番、心地良い。

 「…い」
 
 今はそれだけで十分だと思う。仕事も忙しいし、
 「……おい。」

 決算も近いし、もうすぐ締め切りだし、
 「……おい!」 
 そういえば、随分会っていない。まあ、コイビトとかじゃないから会うのに時間が空いても別におかしい事じゃない。
 「おい!!!」
 
 「あれ?土方さん?どうかなさいましたか?」
 「お前、散々無視しててそれかよ。」
 どうやら、随分と呼ばれていたらしい。手元の計算で全く気付かなかったけれど。副長の手元を見れば、昨日の書類。 
 「お前、これ不備が見つかったぞ。どこ見て作業してんだ。」
 「え!?」
 はっきり言って、嘘だと思った。その書類は提出の前に三回も計算直しをして全部合っていたのだから。チェックが甘かったとは
思えない。それでも、見直してみれば確かに計算ミスの箇所がある。あるにはあるが、これは……


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 「はあぁぁぁぁぁ。」
 一方場所は変わって、二週間ぶりの万事屋。
 で、新八に入れてもらったお茶を啜りながら溜め息を着く。
 「姉御ぉ、どうしたネ。なんかリストラ間際の親父みたいな溜め息アルな。」
 「う〜ん、ちょっと計算ミスが連続してね。しかも私のした箇所だけ。」
 「仕事って、確か真選組の勘定方ですよね。」
 「う〜ん、うん、まあ、そう、そうかな。」
 「生返事!!」

 副長の後から連続して、ミスを訴える隊員たちの処理をこなして、なんとか今の休みを貰えたのだが。本当は危なかった。
 あのまま作業が頓挫していたら、この休みもふいにするところだった。そんな貴重な休みに、

 「わざわざここにくるっていうのも、私もう終りっぽいなあ。」
 
 「出てる!!黒い心が、口からポロっと!!」
 「気にしないで、新八。お茶がおいしいからよ。それに本心だし。」

 「お茶関係ないわ!ていうか、本心かよ!!」
 なんだって、ここにくるんだか。ホント、わかんないわ〜。真選組が居心地が悪いってわけじゃあない。
 「そんなん、俺に会いに来てるに決まってんじゃねぇか。ほら、ちゃんってば、銀さんに惚れ込んで……」

 「ないない。」
 「はや!?否定はやっ!せめて最後まで言わせようよ、ここはさぁ!」
 「ははは、まさか。」
 「え?何、その続き。まさか…何なんだよ。そこは最後まで言おうよ、せめて!!」

 「え?言ってもいいの?」
 

 「なんだよ、その、“え?本当に聞きたいの?言っても大丈夫?”的な視線は。一体、お前は何を言おうとしたんだよ!!」
 特に何も言う事はなかったんだけれど。何か面白い反応なんで、そのまま無言無表情で見返してみた。

 「ちょ、銀さんの心臓はガラスのハートだから。カラスに突かれただけで大きくひびが入るくらいよ。」
 「嘘付けヨ。対戦車の防弾ガラスに毛の生えたようなハートのクセに。」
 「いやいや、それはお前のハートだろうが、神楽。」
 「いやいやいや、年頃の少女のほうこそもっと繊細な心アル。銀ちゃんとは違うネ。」


 そんなこんなで、いつものような口げんかの勃発。どっちもどっちだと思うんだよね。基本的に。とりあえず、
 「新八、お茶のおかわり。」
 傍観ときめこみましょうか。やっぱり、いいなあ。こういう雰囲気。癒すまではいかないけれどピリピリしたものよりずっと、いい。

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 「ああ、はいはい。二人ともそこまでにしてください。」
 「ああ?何ネ、お茶汲み要員のアイドルオタクが。」
 「このアマ!!っとそうじゃなくて、さん、寝ちゃったんで静かにしてくださいね。」
 「ああ?この喧騒で、眠れるわけ……寝てるよ。」
 「よっぽど疲れてたんですかね〜。」
 毛布をかけながら新八が言う。いや、これは疲れっていうより憑かれてるんじゃねぇか、こいつ。あ〜あ、目の下、隈だらけ。
っつーか、ホントわざわざここに来るのがなんでか、とか考えないのかねぇ、こいつは。こいつと俺の関係もいまいちハッキリしねぇしなぁ。ここは一つ、既成
 「既成事実でも作ってみるか。」
 「そうそう。」
 って、ん?俺じゃねぇぞ。言ったのは。
 声のほうへ視線を向けてみれば、まるで猥褻物を見るかのような性的犯罪者をみるかのような四つの目線に出くわす。
 「銀ちゃん、最低アル。性的犯罪は蛆虫よりも気色が悪いネ。気色悪いのは天パだけにしとくネ。」
 「最悪ですね、年端もいかない少女と同棲しているだけじゃ飽き足らず、手篭めだなんて。」
 「おいおいおい〜、俺はまだな〜んも言ってねぇだろうが。てか神楽、天パの苦労も知らないのに気色悪いに纏めない!」
 「頷いただけで肯定したも同然ですよ。」
 「なんだと、メガネ。お前はなあ、眼鏡がなかったら存在感が八割減なんだよ。」
 と、まあ、お子様達適当にあしらうからいいとして、のやつ、なんかホントにやつれてきてるんじゃねぇか。
 つーか、目の前でこんな無防備にされても、微妙だな。俺、ちゃんとそういう対象って言ってるよな。あれ?冗談ってされてるのか?
 え?まじで?じゃあなんだ、俺は好きでもないヤツにキスしてり胸触ったりする変態とでも思われてんのか。それはかなり、いたい。
 一人悶々と考えていると遠くから、神楽の声が聞こえてくる。
 

 「銀ちゃん、どうしたネ。足りない頭で考えてもなにも良い事思い浮かばないアル。」
 「神楽ちゃん、放っておいたほうがいいよ。きっとまた、如何わしいことでも考えてるんだよ。さんに脈がないからって見苦しい。」

 とりあえず、新八、お前今度仕置き決定な。神楽は後が怖いから保留。寝ているの頭を撫でる。真っ黒な髪だと固そうに感じていたが、意外にも柔らかかった。
 
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 目を覚ますと、窓から見えるのは夕日だった。いつの間に寝ていたんだろう。ゆっくりと身を起すと誰かが掛けてくれたらしい毛布が落ちる。
 部屋の中は静まりかえっていて昼間の喧騒が嘘のようだった。どうやら、誰もいないらしい。
 こんな風な部屋にいるのは、あまり好きではない。情報屋をやっていた時も極力、一人にならないよう過ごしていた。
 主に特盛のところに居たんだけれど。裏方の手伝いとして。こんな風に一人になるのは攘夷戦争の時以来かな。いつだって、葛葉を待っていた。
 薄暗くなっている部屋のなかで、明かりもつけずにただ扉が開くのを待っていた。帰ってきて欲しいと、願いながら。


 帰って来ないかもしれないことに怯えながら。部屋の片隅で膝を抱えて丸くなっていた。


 誰かが出ていくのを見送るのも、


 誰かが帰ってくるのを待つだけなのも、


 悲しいことだ。帰ってくることをどこかで心待ちに期待している自分がいるから。

 待っても来ないという事実に、打ちのめされる。寂しい。
 どうしようもなく、この場が寂しい。


 真選組も万事屋も喧騒があったほうがいい。人がいることがわかるから。一人だけではないことが安心するから。
 どうしようもなく、寂しい。昔を思い出す。待っても帰ってこなかった葛葉。彼女を待ち続けていた日を思い出す。

 どうしよう、思い出したくなのに。
 夕日が薄闇に変わる。私もあのころに帰っていく。ソファーの上で自分の膝を引き寄せ掻き抱く。


 「たで〜ま〜、っと起きてたのか、。」

 能天気な声が響く。どこか意気消沈したような感じを伴って。

 「なんだ、明かりもつけないで暗くねぇ?こんなブルーな気分な時に部屋も暗いとやってられねぇぞ、おい。」

 かちっ、という部屋の明かりが付けられた音がした。私は動くこともできなかったあの闇が一瞬で明るくなる。この男の手で。
こんなにも簡単に。どうして、こう、いつもいつも。

 「あ〜、あそこで止めときゃ良かったのによぉ。この右手がなあ。つぅわけで、これ戦利品……?」

 この男が部屋に帰ってきて初めて私の顔を見る。
 「お前、なんだ。何、泣きそうな顔してんだよ。」
 よかった、まだ泣いてなかったのか。でも、これきっと、一言でもしゃべると泣く。絶対。頭をがしがし掻きながら近づいてくる。
でも、何も反応できない。動いたら、しゃべったら涙が出そうで。しかも、さっきは寂しくて泣きそうだったのに、今は違う。
どうしてこの人はいつもいつも、タイミングがいいんだろう。自然体で何か特別な事をしでかす素振りもなく、私ができない事を

 したくてもできない事を


 簡単に成してしまう。
 このタイミングの良さ、居心地の良さ、癖になったらどうしよう。


 癖になって好きになったらどうしよう。きっと手放したくなくなってしまう。

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 パチンコから帰ってみればソファーに黒い塊がある。

「たで〜ま〜、っと起きてたのか、。」

定春は神楽と一緒に新八の家にいるから、あれはだろう。

「なんだ、明かりもつけないで暗くねぇ?こんなブルーな気分な時に部屋も暗いとやってられねぇぞ、おい。」

部屋の明かりも付けずに何やってんだ。パチンコは大損の一歩手前。戦利品はチョコ一切れ。
 ま、疲れてる時こそ糖分の出番だろ。今のこいつは俺の未来の糖分ではなく、の疲労回復薬としての使命を負った。

「あ〜、あそこで止めときゃ良かったのによぉ。この右手がなあ。つぅわけで、これ戦利品……?」

 見て、驚いた。泣きそうな顔をしていた。

「お前、なんだ。何、泣きそうな顔してんだよ。」
 悲しいってわけじゃあなさそうだが。なんだ、この表情。あれ、アレに似てる。迷子が母親見つけてほっとした感じ。
なんか、幼い感じが漂う。
 近づいてその肩に触れようとしたとき、一瞬だがその肩が拒絶に震えた。屈んで視線を合わせると、そこに浮かぶのは困惑。
 「ごめんっ。ちょ、っと嫌なこと思い出して、帰ってきて、吃驚して、近づいて。それで。」
 「あ〜っと、とりあえず、だな。俺お前抱きしめるから、触らせて。」
 「は?」
 我ながら妙なこと言っているのはわかっているが、なんか、言葉じゃ意味なさそうだしな。
 腕の中、僅かに震え続けるの背を、一定のリズムでたたく。なんつうか、こうしてると女の体なんだよな。
華奢ってわけじゃなく、筋肉もそれなりについているのに、男とは違う。初めに会ったときは気の強そうな女だと思った。
虚勢張ってるのが丸分かりなのに、それでも立って歩いている姿に惹かれた。同時に心配もあった。


 壊れたら、きっと自分で修復できないだろう、と。

 そう思ったら、表面の表情なんて嘘に見えてきて本当の顔を見てみたくなった。自分が最低のことをしてでも見たいと思った。
そして今、それは叶った。今まで、女がこんなふうにしているのを見ると正直、冷めたし引いた。そういうのを武器にしている奴でさえいた。

 それでも、こいつの顔はもっと見たくなる。我慢しすぎるくらいなら泣かせたほうがいい。まあ、笑ってくれるに越した事はないが。
色々な面を見たい。会う度、見る度強くなる思い。は、しらねぇんだろうな。こんな風に思ってるのは。

 「なんか、」
 「あ〜?」
 

 「お母さん、みたいだ。」
 「んな!?よりにもよってオカン!!って葛葉かよ!?」
 「いやいや、世間一般のお母さん。」

 「、男にそれはきついぞ。しかも好意もってるやつからだと破壊力が強い。」

 今日、一番の大損はパチンコじゃなくてこっちか。こいつのこの台詞か。



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