タイトル『目が合うと、どうしていいのかわからない』

 最近、やたらと計算ミスが目立つ。心当たりは、ないようなあるような。

 こんな大きな組織内に入れば、ある。こういう類のイジメ。しかし、幸か不幸か私はこんな体験初めてで
正直、どんな反応を示したらよいのかわからない。取りあえず、状況を見極めるために傍観としますか。

 「おい、
  お前ぇ、最近ミスが連発らしいじゃねぇか。」
 「はあ、まあ。それより、ソレ何です? 身体に悪そうな。」

 縁側で土方は串に刺さった団子にマヨネーズをかけていた。しかもそれを、さも当然のように食す。
うまそうに、「土方スペシャルだ」と言いながら。これは、いくらなんでも食べ物に対して失礼だろうに。

 「やらねぇぞ。」
 「いりません、謹んで辞退申し上げます。遠慮いたします。」
 「なんでぇ、その言いようは。まあ、いい。本題だ。」

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 勘定方の執務室へ戻ると、妙な空気が漂っていた。
 空気もだが、臭う。


 私の使っていた机に目を向ければ、積み重ねられた書類の上にぶちまけられた汚水。

 関わりあいにならないように、でも、事の成り行きを見たいという視線が注がれる。

 
 陰湿。
 女、か。

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 夕刻、昼間の事で駄目になった書類がようやく片付いた。
 あとは、今日の分の書類だが厚さが3センチはある。
一番上の分に目をはせると、私がするには容易すぎるようなものだった。その下も覗いてみると、同じような感じだった。
 
 段々、書類が増えているとは感じていたが、これは。


 便乗している馬鹿がいるな。でも、これくらいなら、今日中に終る。あと二時間くらいで終らせる。周りの同僚達は最期の締めを終
らせて席を立っていく。その背に一言。

 「お疲れ様でした。」
 「……」
 「……」

 沈黙をもって返される。否、秘かに嘲笑が混じっていた。

 書類はこいつら、と。それにしても。



 「と、いうわけなんだけれど。幼稚よね。男って。」
 熱燗をちびちびしながら、特盛に述べる。身体は一応、男の特盛にいうのもおかしい気がしたが、ここはこだわらない。
 「な〜に言ってんのよ。そんなに男を経験したこともないだろうに。」
 「ん〜、それはそうなんだけどね。なんか、下らない男が周りに多い気がするのよ。」

 「ほぉ。」

 特盛が男の声をだしながら先を促す。
 「女が主犯なのに、現場も見ているだろうに何も言えないくだらないヤツ。

 事情もわからないくせに便乗するヤツ。

 関わりあいになりたくがないために、挨拶すら返さないヤツ。


 男ってこんなのばかりなのか? こういう種族? 」


 特盛の方へ意見を促すと、彼は言う。

 「何時の時代にも、そういう奴はいるさ。だが、そうじゃないヤツもいる。

 稀にだがな。そして、その稀な中からが想う事の出来るヤツもいるさ。」
 時々、男の顔をする特盛は昔のままだ。昔、まだ彼が彼女になる前もこういう目をしていた。一つの信念を貫き通すような。
 そういう、特盛も好きだと思う。

 「砂漠の砂金粒、みたいね。見つけても分からないかもしれないじゃない。」

 「分かるさ。」

 馬鹿なことを、とでも言わんばかりに呆れた感じで特盛は言う。

 「なんで? どうやって? 」


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 意外なことを聞いた。
 岐路へと辿る道中、特盛の言葉を反芻する。天人が江戸へ来た時から今までの経験を経たせいか、重みがあった。
 人生経験の違い、か。

 暗い夜道、月明かりが反射する物が目を掠めた。

 「お、じゃねぇか。」
 
 「げっ。」
 「って開口一番それかよ。つーか、お前呑んでんのか? 」
 先日の失態から今まで会っていない。はっきり言って、もう少し会うなら会うと予告をして欲しい。準備が欲しい。

 「こちとら明日からの糖分もままならなのにちゃんは、御前様ですか、このやろぉ。」
 「特盛のところでね。」
 「うげっ。」

 「て、何よそれ。」
 「おま、そりゃあ、悪酔いしちゃうよ。あいつらの顔見て酒飲むんじゃあ。」

 はっきり言おう。
 腹が立った。酒の勢いも手伝ってか思うことが簡単に行動に出た。

 「っと。」

 が、捕らえられた。頭を引っ叩こうと思ったのに。
 「むかつく。止めるな。」
 「いやいやいやいや、止めるでしょ。銀さん、Mじゃあないからね。Sだから、どっちかというとSだから。

 で、な〜んでそんなにご立腹なんだよ。」

 私は、誰かを嫌いと思うことは少ない。
 代わりに好きと思うことも少ない。
 ほとんどが、無関心だからだ。だからこそ数少ない“好き”な人を馬鹿にされたら“嫌”だ。

 「特盛は私の第二の母、父、だから。
  オカマだけど、そういう見方嫌だ。むかつく。」

 得てして、このように述べると周囲は引くか避ける。関わろうとしない。私の言う事も特盛のことを知ろうともせずに。

 私は、特盛が大切で。
 特別で。それは、血のつながりがないからこそ余計に。

 そういうことを伝えたいのに伝えられない自分がもどかしくて、俯いてしまう。手を捕らえられたまま。








  「ふ〜〜ん。
  そうかよ。じゃあ、俺はを娶る時にはあのおっかねえ場所に行かなけりゃなんねぇなあ。」
 だから、吃驚した。


 こんな風に言ってくれるなんて思ってなかった。顔を上げると月明かりを背景に銀時と目が、合った。

 


 頭の中で、特盛の言葉が反芻する。

 『そういうヤツと目が合うと』



 酔いとは別に頭の中が真っ白になる。


 『どうしたらいいのかわからなくなるのさ』


 ただ、近付いてくる銀時の顔を見つめたまま、互いに話すこともせず、けれども互いに意識しながら、


互いに口付けていた。


 そのとき初めて、私は銀時の背に手を回した。自ら、初めて。


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