タイトル『double-faced person?』

その日、東方司令部は奇声にて、うららかな昼間の終わりを告げた。
その奇声の主は、東方司令部・司令官、ロイ・マスタング。29歳、若くして大佐の地位に就くものである。
国家錬金術師で“焔の錬金術師”の、二つ名を持つものである。仕事をよくサボり、町中の女性を把握しているのではないか、とも思われる人物。
そんな人物のこの世ならぬ奇声。
同執務室にいた、部下たちは奇異の目で彼を見つめるのであった。


同時刻。イーストシティ、駅に、とある少女が足を踏み入れた。
一通の手紙を持って。その足は迷うことなく東方司令部へと向かうのであった。



「大変だ。大変だ。まずいぞ、これは。」
誰もいない執務室でウロウロとするもの。この奇行を咎める者は残念ながらいなかった。
いつも彼のお守り役を自負している、リザ・ホークアイ中尉は所用で退室しているのだった。
「よし、とにかくここから逃げよう。」
そう決めたロイ。しかし、机の上には未処理の書類たち。それを目にもかけず、ドアに手をかける。
だが、その手は途中で止まった。向こう側からノックに続き、入室者がいたからだ。
入ってきた人物は、意外にも近くにいて、しかも、明らかに外出しようとしている、その様子を見て、ためらうことなく
その愛銃に手を伸ばしたのだった。


少女が東方司令部、執務室へ案内されているとき、銃声が二発した。
「何事ですか?」
耳に心地良い、少しアルトの声が尋ねる。
案内しているものは、ケイン・フュリー曹長。体は小柄だが手先が器用で機械類に強い。
その一方、情に弱く、以前、捨てられた子犬を拾ってきたという前科があった。
もちろん、フュリーは飼えず、その犬は今、ホークアイ中尉のもとで、元気に育っている。
「あ、ホークアイ中尉のですね。大丈夫です。ここでは日常茶飯事ですから。」
その銃声にも慣れたもので、ほがらかに応えるフュリー曹長。
「そうですか。」
少女もほがらかに?異常なことも受け止める。フュリー曹長も心中で疑問に思いながらも、執務室へ着く。
するといつも通り、中から自分の上司たちの喧騒が聞こえてきた。



「頼む、中尉。見逃してくれ。」
「何をおっしゃっているんです。仕事はまだまだ、あるんですよ。」
「早く逃げないと、来るんだ!!あいつが!」
「何をわけの分からないことを。だいたい、お客さまが来られるのなら、なお、ここに居られるべきです。」


室外まで筒抜けのこの会話を、半ば呆れつつ聞いていたフュリー曹長。
とにかく、自分はこの少女を連れて行かなければ、と思いノックしようとした。

が、後ろにいた少女が手を伸ばし、先に中へ入っていく。


ノックもなしに入ってきた闖入者。中の騒ぎもやみ、一方でホークアイ中尉がホルスターに手を伸ばした。
「……遅かったか。」

沈黙の中、鎮痛で重い一言がロイから発せられた。その言葉からロイと知己ということがわかり、警戒を解くホークアイ中尉。

「どこかへ、お出かけですか?ロイ。」
「いや、それは…」
「あら?なんだかお仕事がたくさんですね?…お出かけですの?私が会いに来ましたのに。」

微笑を浮かべつつ話す少女と、会話が進んでいく内に明らかに青ざめていくロイ。
対照的な二人の光景にフュリー曹長は関わるまいと、決心し静かに退室しようとした。



「逃げなければならないお客さまとは、どのような方のことでしょう。
                         婚約者である私のことではないでしょうね?」







ホークアイ中尉は、少女をみる。自分の上司の“婚約者”と名乗った彼女。
髪は、ロイと同じく漆黒で腰の辺りまである。まっすぐで、見てもわかるほどきれいなものだ。瞳の色も同じく黒。
白いふんわりとしたワンピースを着て、今はカップのコーヒーを飲んでいる。

最初、ホークアイ中尉は街でロイのしてきたナンパの結果なのかと思っていた。見目がよく、人当たりもよい上司は、街での情報収集のためによく
女性に声をかける。それを思い違いして、押し迫る女性もいるのだった。
だが、彼女は……


『私は、そんなことは聞いていない!!』
“婚約者”という言葉が出た途端、すさまじい剣幕で怒鳴るロイ。
『だいたい、その知らせですら先ほど、読んだばかりなんだぞ!!』
それには心当たりがあった。
ロイの実家からと思われる一通の手紙。
それを読み終わった直後、奇声をはなったのだった、彼は。そして、今まで以上に奇行が目立っていた。
その怒鳴り声に臆することなく、少女は述べる。
『当たり前です。私が旅立つと同時に投函されたのですから。』
つまり、事前に連絡、ではなく、手紙と少女、どちらが先に着くかは微妙なところだったのだ。
その言葉に一層、顔を赤めて叫ぶ。
『単なる、幼なじみだろうが!!俺とお前は!!』



ロイに幼なじみがいたことも驚きだったが、一番不思議なのは彼女だ。幼なじみというには、ロイとは年が離れすぎているように思われたのだ。
「ホークアイ中尉、ですよね?このコーヒーとてもおいしいです。」
ことらの思いを知ってか知らずか、彼女は先ほどよりも大人びた表情でいう。
「私、と申します。先ほどは、いきなり入室いたしまして申し訳ありません。」
どこかの令嬢を思わせる、丁寧な言葉遣い。本当に、ロイの幼なじみなのだろうか、あの上司と。
「いえ。大佐の実家方面からではかなりお疲れでしょう。」
と、そこへ何やら騒々しく入室するものが約3名。

「中尉、大佐に嫁さんて本当っスカ!」
「いやー、いつかこうなると思ってたんだよ。」
「いったい、どのような女性なのでしょう。」
上から順に、ジャン・ハボック少尉、ハイマンス・ブレダ少尉、ヴァトー・ファルマン准尉。
フュリー曹長から“婚約者”のことを聞き、興味本位で見にきたのだった。
そして、を見て、誰もが思ったのだった。

(((犯罪だ!!)))

ホークアイ中尉も感じたとおり、はまだまだ少女に見えるのだった。
「いつも、マスタングがお世話になっております。」
そう、微笑まれて丁寧に言われれば、恐縮するしかなく。

「失礼ながら一つお聞きしてよろしいですか。」
男共は完全に抜けているので、彼らの代表として彼女に問う、ホークアイ。
「何でしょうか。」
「お年はいくつなのですか?」
「今年で24になります。」

その言葉に衝撃を受けたのは、やはり男性陣。
(((24!!うそだろ!どう見ても20くらいだ!!)))


「何をやっている。」

不機嫌もここに極まり、地を這うような声が背後から聞こえた。
「あら。お仕事は終わりましたの?」

「…ああ。話がある。」
先ほどとは違い落ち着き払った様子でを見るロイ。
「何でしょう。」
「執務室まで来たまえ。」
「あら。私はここでも良い…」
その言葉は途中で遮られた。

「いいから、来るんだ。」





場所は、執務室へ移る。ロイはホークアイ中尉に極力、人を近づけさせないように言っておいて、更に内鍵までかけた。

「さて、説明してもらおうか。」

「説明も何も、手紙のとおりですわ。」
丁寧な言葉も過ぎればただの、嫌味に聞こえてしまうものである。
。まず、その言葉遣いを元にもどすんだ。」

元に……
「なんで?気に入らない?お嬢様〜っぽいの。」
今までの口調とは打って変わった、そう、それこそ年よりも幼げな感じを与えるものに変わった。
しかし、なぜかそちらの方が彼女らしさがあった。

「似合わない。」

ひっどいな〜と言いつつもどこか、楽しそうにしゃべっている

「説明してもらおうか。なぜ、いきなり婚約者となったのかを。」

「簡単、簡単。おばさまのご意向。」
「お前は!なぜ、そんなに落ち着いていられる!結婚、なんだぞ!!」

相変わらず、にこにこと笑いながらロイを見る
「いやなの〜?」

どこかふざけた感じがあり、その態度にロイは憤慨する。
「当たり前だ!!」

ふ〜ん、と言いつつも微笑を絶やさない
そして次には、婚約者、発言に勝るとも劣らない言葉が。

「今日から数日、ロイの家に泊まるから。」


よろしく〜と言う。その光景に、本日何度目かの、叫びをあげるロイであった。




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