タイトル『double-faced person?2』

その日の早朝。ロイ・マスタングは奇妙な朝を向かえた。

連日の徹夜が続き、やっと自宅へ帰ることができた。ただでさえ、激務の中、先日“婚約者”を名乗る者の訪問。しかも、その娘は、ロイの家に滞在している。
ここ数日は司令部に泊り込みだった。そのため、その娘―が居候しはじめてから、初めての帰宅となる。
帰宅といっても優に、午前3時を過ぎていたため、家の中は静まりかえっていた。

何はともかく、ロイは眠りたかった。深く考えもせず寝室のベッドへ入ったのだった。


そして、今に至る。ロイは布団の中に違和感を覚えた。
自分は一人でベッドに寝ているはずだ。
おぼろげながらも、昨夜の記憶を手繰り寄せる。確かに自分は一人で、床に就いた。これは、確実だ。

だが、現在、自分の隣にありえない温もりを感じるのも確かで。


確認するには、目を開けるのが一番速く、手っ取り早い。

しかし、それをするにはどうも本能が拒否する。
おそるおそる、手を動かす。

触れるもの、妙にやわらかい。
そして、不意に香る匂い、これは………




「そんなに触っていたいの?ロイ。」




カッと目を見開き隣を見るロイ。
寝ぼけている暇すらなく、無理矢理覚醒させられる不快感。
だが、それよりも、勝ったのは


「何で、お前がここに居る!!」

怒鳴らずには居られない衝動。

隣には案の定?否、彼は認めたくはなかっただろうが、はどうやってか分からないが、ロイの寝床にもぐりこんでいた。
仮にも軍人であるロイに気づかれずに。
「俺は鍵をかけたはずだ!」

そう、確かに彼は鍵をかけていた。
一体、どうやったのやら。

「そんなことより…」

そんなこと、ではない気がするのだが。






「胸、触りたかったの?それとも、この続きをするの?」






前言撤回。この言葉に比べれば、確かに鍵のことなどそんなことで済む。
その日の朝、普段は物静かなマスタングの家から奇声が発せられたのだった。












「まったく、冗談ではないぞ!」
その日の午後、ロイはいつものように出勤していた。いつもと違っていたのは、その書類に目を通す速さ、印を押す強さだろう。そんな上司を見かねたのか、ホークアイ中尉は、
「大佐、執務はお静かに。」
と諫めるほどであった。
「そうは言うが、考えても見たまえ。知らぬうちに忍び込まれた私の心境を!」
「夜這いは大佐の専売特許かと思っておりましたが。」
「……一体、君の中の私はどういう位置づけなのかね。」
「デスクワークと雨の日は無能、と心得ておりますが」
何か問題でも?と目線で訴えてくる中尉を見て、ロイは心持ち静かに政務に励んでいたとか。

そんな上司を見つつ、ホークアイ中尉は心中でひとり考える。
(大佐はあんまり真剣に考えていないようだけど。でもさんは…)

「大佐。差し出がましいでしょうが一言よろしいでしょうか。」







夕方。連日の徹夜と本日の(意外な)政務の速さにより、定時に帰ることができたロイ。道すがら、中尉の言葉を反芻しつつ考える。のことを。
は幼馴染だ。それ以上でもそれ以下でもない。
自分の過去を知っている者。幼い自分を共に過した者。
ただ、それだけだ。

自分の一番つらいときを共有したのは、皮肉にも軍であった。

だいたい、は軍で俺が何をしたか知らない。



そうこう考えているうちに、家の門に行き着いた。そして、ふと家の中から今までにないことが起こっていた。

扉を開ければ、おいしそうな匂いが。今まで、帰っても食事は最低限でしかなかった。ましてや、食事の準備をしてくれるものなどいない。東部で視察のときにナンパしているからといって、簡単に家に上げようとは思わない。というか、この家に女性はが初めてだった。……半ば強引に押しかけてきたのが実態だが。


台所に向かうと、確かにが食事の準備をしていた。どこで見つけたのか、ウェイターのエプロンを着、手際よく鍋を混ぜていた。どうやら、中身はシチューらしい。
テーブルの上には今、焼いたばかりのようにあつあつのハンバーグがちょうど良い色合いで皿の上を飾っている。

。」
以前までの彼女は、こんな風に作れなかった。記憶の中の彼女は、まだまだ、女としては未熟な要素が多く料理に関してもそうであった。
「あー、おかえりー。今日は早かったんだ。」
何事もないように振り返り、かけられることば。


『おかえり』と言われたのは一体何年ぶりなのか。

それにしても、気になるのはの手際のよさ。慣れない台所であるはずなのに、まるで自分のもののような立ちぶるまい。まるで、何年も使っていたような。

そして、気づく。先ほどの言葉。

今日は。


この家に滞在し始めて、数日。彼女は毎日、作っていたのか。いつ帰るとも知れない自分の分の夕飯を。
記憶の中の彼女との違い。

。」
「んー?」
味見しながら応える
「いつも作っていてくれたのか。」
「……一人分作るも、二人分も変わらないからね〜。ついで、にね。」

変わった彼女。
けれども、こんなところは変わらない。彼女なりの照れ隠し。
嘘をつくときも、誤魔化そうとするときも、必ず、何拍か開いて返事をする癖。


そんなとき、不図ホークアイ中尉の言葉を思い出した。



『同じ女としての意見ですが、さんは本気でここまで来たのだと思いますよ。』


本気かどうか、それは今のところ保留しておこう。

ただ、認識を改める必要があるな。





は女になっている、と。




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