タイトル『Double-faced person?7』

「ん?」
が目を覚ますとそこは、見知らぬ場所だった。部屋の中は暗く、窓から覗く空が暗いことからもう夜らしい。そうして、自分が何故ここにいるのかを思い出そうとした。確か自分は、東方司令部からの使いから伝言を受けとって、その伝言は紙に書かれていた。一単語。
(えーっと。連れ去られたのよね?あの手紙通りに。でもそれにしては…)
と、とりあえずの自分の状況を確認しては疑問に思う。
(結構、自由が利く)
そう、身動きができないわけでもなく両腕も縛られていないし猿轡もされていない。そうこうしている内に目が暗闇に慣れてきたのか部屋の中の様子が見て取れた。
部屋の中にあるのはベッドと机。そして鏡台。それだけ見ると女の部屋のようだが、ここの持ち主は男だろう。鏡台の上には女ならば化粧品の類が多いがここにはそのようなものはなかった。それどころか、どうもおぼろげにしか見えないが、ビーカーや注射器のような輪郭のものが伺えた。
まあ、そのようなものを集める趣味の女性がいないとは限らないが、の意識が途絶える間際。確かにその顔は男で、しかも彼は……
「気がついたんだ?」
扉があるらしい方面から男が入ってきた。そこから漏れる光がの顔に当たり思わず目を細める。しかし、この声だけでもこの男が誰か、否いつ会ったかはすぐにわかった。
「逃げよう、なんて考えないでね。君のためなんだから。」
自分に酔っているかのような声音に思わず眉間に皺を寄せただった。


「大佐、男の身元がわれました。」
が覚醒するよりも少し時間はさかのぼる。ホークアイがが拉致されたことを報告して2時間後くらい経っていた。
「報告したまえ。」
司令部の一部が騒々しかった。なぜ、一部なのか。それは、ロイが必要最低限の人物にしかの拉致を知らせておらず、また、少人数で片付けようと決めたからだ。だから、この事件を知っているものは全部で7人。フュリー、ファルマン、ブレダ、ハボック、ホークアイ、ヒューズ、そしてロイのみであった。
「男の名前はキーン・アルベルト、27歳。現在、無職ですが、その前は薬剤師として働いていました。そして肝心のとの接点ですが…」
なぜかココでいつもは流暢に簡潔に要点を述べるホークアイが言いよどんだ。
「続けたまえ。」
「先日、をナンパしていたのが最初の接点かと思われます。自分もその現場に居合わせていたのですが、その時は自分の助けなど必要なく、つまり彼に対して罵詈雑言を。
彼の知人に尋ねたところ、彼は女性に断られたことがないことが自慢だったとか。」
「ふむ。それなのに自分を断ったに対する逆恨み、か。…まったく嘆かわしいな。女性に断られたことくらいでこのような行動に移るなど。」
呆れたような物言いだが、目線だけは真剣に書類に向けられていた。
「そりゃあ、大佐にはわかんないものっすよ。断られたことがないんすから。」
いつも、失礼、ときどき断られるハボックがロイの言葉に言い返す。いつもならば、まだ、嫌味の一つでも言おうものだが今回はこれだけにしておいた。
「しかし、さんどんな断り方をしたのでしょうな。」
そう言ったのはファルマンだったが、ロイ、ヒューズ、ホークアイ以外はそれに頷いた。いつもの朗らかな様子(表向き)からは逆恨みでもされるような断り方を想像できないらしい。
因みにヒューズはどうして、の裏?というか素を知っているかと言うと、一目見たときからはおとなしいだけではない、と確信したとか。その理由は、あのロイの婚約者を名乗るならそれだけで一般ではない、とか。
「それは置いといて、だ。奴から何か声明文はないのか。」
(大方、その男に本のことでも馬鹿にした物言いをしたんだろう)
同じくナンパを良くするロイは、幼なじみのことを思い浮かべ検討をつける。
「ありません、全くです。」
「ふむ、目的はなんだろうな。」
何か誘拐にしろ拉致にしろ、加害者側から要求があってしかるべきだ。が、それがないとなると交渉すらできなくなる。現時点で、彼らは意外と落ち着いている。というのも、がキーンの家に連れ込まれていることは分かっており、そこには憲兵を見張らせているので何か異常があったら連絡が来る手はずになっているのだった。憲兵にはもちろん拉致など言ってはいない。
「目的なあ。なあ、こいつ薬剤師ならたいした頭もちってことだよなあ。」
「なんだ、気になることでもあるのか?ヒューズ。」
「なあ、こいつ錬金術師くずれってことはないか?」
「!?ファルマン、資料室から国家錬金術師受験者を洗いなおせ、こいつが過去に受験したかもしれん。」



ぎしっと男がに近づく。男がに近づくたびには一歩ずつ後退する。が、もともと入り口を背にした男がに近づいているため、はどうしても壁際に追いつめられてしまう。の背に壁があたる。それでも近づいてくる男。目をそらせば何が起こるかわからない、という強迫観念のもとは男を見上げ続けていた。部屋の中はまだ暗いため男の顔の位置は定かではない。それでもそのあたりだろうと、検討をつけ見続ける。と、そのときの目をいきなり、光が襲った。今までの暗闇に慣れた目にその刺激はきつく、思わず目を閉じてしまった
そして自分の両腕と背中に衝撃をうけた。両腕は男によって捕まれ、背中を走った衝撃はどうやら床に打ち付けられてらしい。光の正体はその部屋の電気を男が点けたのだった。
「っつ!?」
背中の衝撃が突き抜けは一瞬息がつまった。そして、体に重みを感じおそろおそる目を開ける。案の定、男がのしかかってきていた。
「離せ、どけ、帰せ。」
「ふふ、初めてあった時もそうやって罵ってくれたよね。でも、君は知るべきだよ。男と女の力の差ってのを。…まあ、俺がどいても君は動けないだろうね。」
それは男に言われるまでもなく自身感じていることだった。だが、その差があるせいでは逆に冷静さを保っていた。その冷静さは、薄い氷のような脆いものだったが。力の差があるのは仕方がない。こればかりは今もこれからもどうしようもない。が、先ほどから妙な汗が背中にまとわりつく。それとともにどうも、体がしびれているような感じがして動くとことがままならなくなってきた。
「ほら、俺はどいたよ。逃げてみる?」
その時男に浮かんだ表情は“狩る”側のものだった。動こうにも動けないことに恐怖が増したは視界に自分の腕が入った。そして、そこに注射後を発見し血の気がひいた。
「ああ、気づいたんだね。これだよ。」
そう言って男は鏡台からビーカーと注射器を指差した。
「即席でつくったんだ。痺れ薬。」
「なっ!」
「こうすればは大人しく俺の話を聞いてくれるでしょ?」
全身に鳥肌がたつ、というのを感じた時だった。
(おかしい、この男。でもそれより何より…)
に会った後から俺、いろいろ調べたんだ。は焔の錬金術師の婚約者なんだってね。でもそれは、しか受け入れていないみたいだね。あの男はそれを否定しているじゃないか。それなら、俺の婚約者になりなよ。否定なんかしないよ。だいたい、国家錬金術師なんて軍の狗、にはふさわしくないんだ。あいつだってイシュヴァールの英雄なんていわれているけれど、結局は人殺しじゃないか。血に染まった手でに触れることは許されない。だが、俺は違う!人を救う手だ!真っ白な手だ!に触れていいのは俺だ!奴じゃない、ははは。ははははははははは。」
一息にすべてを言った後男は高笑いをし、言った自分に酔いしれていた。視線をそらすことができずにその男に見入っていた。人に対して嫌悪感よりも、恐怖よりも、もっとおぞましく恐ろしいものを感じたのだった。そして、その次の瞬間にはそれよりも激しい怒り。
「ふっざっけんじゃない!確かにロイは私を婚約者なんて思ってない!私だってもしかしたらロイに対して恋愛感情なんか無いかも知れない!でも、少なくとも私はロイに否定なんてされていない!ロイは確かに人殺しだけど、それを認めてる!少なくとも!あんたみたいに自分のしていることを正当化なんてしない!」
正当化、その言葉に男は今までの表情を一切、消した。
「へー、その状況で俺にまだ、口答えするんだ。」
「だいたい、人を救うっていう手で私を動けないようにしているのはあんただ!私は、ロイの手が血に染まっていることも知っていて婚約者って言ってる!生半可な覚悟でそんなこと言っていない!それに私の名前を呼ぶな!虫唾がはしる!」
「どうやら躾のなってない子にはそれなりのことをしなくちゃね。」
男の意識がすべてに集中した。
そのとき、ぱりんっと窓に小さな穴が開いた。それはどう見ても銃痕。狙撃の跡だった。
「なんだ!」
男が窓に目線を向けると、次に瞬間には扉が開き、
「そこまでだ、キーン・アルベルト。婦女誘拐罪で現行犯逮捕する。」
そこへ入ってきたのは、銃をキーンに向けて威嚇するロイとハボックであった。
「おっと、銃やあなたお得意の発火布はやめておいたほうが良い。この部屋には非常に燃えやすい液体が気化してあるんですよ。いかにあなたでも、ここで酸素量を調節し火花を出すことは不可能。下手をすればみな、黒こげ、ですからね。」
そう言いキーンは片手にを抱き窓際にうつる。
「さて、をこんなに密着していては、狙撃はやめておいたほうがいい。俺の体を突き抜けてにまで弾はいくからな。さあ、銃を落としてもらおうか。」
そう言いつつ、キーンはの顎に手をやり無理やり上を向かせ
「っつ!?」
口付けた。
その目線は、ロイに向けられていた。
一方ロイは、その様子をさも平然としてみていた。表情は冷たく、如何にも興味なさ気に。
そして、ごとっという音とともにロイは銃と発火布をキーンに向かって投げた。
それを見ては叫ぶ。
「この、ばか!!」
「ははははは、全くだよ!丸腰で、俺とやりあえると…うわっ!」
武器を投げ出したロイの様子にキーンはロイを馬鹿にしたように見ていたが、急に手に痛みを感じた。その手は、を抱いているほうの手だった。そして、そこには小型のナイフが刺さっていた。それはヒューズがいつも使うものであった。
「ひゅー、中佐の読み。たしかっすね。」

『大佐、ありました。キーン・アルベルト、確かに過去に受験しています。』
『相手は錬金術の知識もちってことだな、ロイ。』
『ああ、ヒューズ、ナイフを貸してくれ。キーンが錬金術の知識所有ならばいざというときに役に立つのはこういうものだろう。』

手に急な怪我。を手放さざるを得なかった。そして、が離れた瞬間にホークアイの狙撃があり手とは逆の肩を損傷。そのまま、ハボックにより捕らえられ連行されたのだった。

!大丈夫か!」
近寄ったロイには一言。
「こんのばか。怖いまね、しないでよ。」
「ふっ、俺はまだ死なんさ。って、おい、おい!!」


遠くでロイの声が聞こえる。怖かった。あの男よりも。
ロイが危険に会うことが。
怖かった。ロイの存在が無くなるかもしれないことが。
怖かった。無茶をするロイが。

ああ、私がロイの歯止めになれたらよいのに。…歯止め?って、なにの?



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