タイトル『Double-faced person?9』
病室内は沈黙に包まれていた。
それは、一般の病室で中に一人ならば普通のことだが今は違う。
病室の中には男女が一人ずつ。そんな二人の心中は部屋の中の沈黙に反して複雑に騒いでいたとか。
の心中は、先程の言葉を聞かれていたことから焦りが。自身の心音の速さにその音の大きさに焦っていた。
ロイは今聞いたの言葉を反芻していた。そして、ヒューズの言葉も。ヒューズは病室から出て行くとき通りざまロイに言ったのだった。
『こんな告白されちゃあなあ。…お前も覚悟、決めろよ。』
(どうしろというんだ。大体、“幼なじみ”の期間が長すぎたんだ。)
確かに長かっただろうが今回、は“婚約者”としての来訪だったのだ。
“幼なじみ”ではなく、だからロイのそれは言い訳にしかならないのだった。
「体の調子は、どうなんだ?」
「うん、平気。」
「そうか。」
(全く、いつも女性に対してのことがにだけはできないのだから。
こんなところをハボックなどにでも見られてたら)
そこまで考えて、ため息をつく。
「ねえ、ロイ。」
「なんだ?」
「どこから聞こえてた?」
「……」
沈黙はすべてを語る。つまり、全部聞いていた、と。
そのように解釈したは諦めにも似たため息をつき、
「明日、退院したらそのまま田舎に帰ろうと思うの。」
そう、言ったのだった。それに驚かないロイではない。
それに、先日自身の感情を自覚したロイにはに返ってもらいたくは無かった。
「!?だが、婚約のことはどうする!」
そう言うとはふっと微笑み、引き出しから一通の手紙を差し出した。
それをロイは受け取り、読んで驚愕する。
「な!これは!?」
「そうよ、私たちの婚約はいつでも破棄の状態にできたのよ。」
その紙はロイの母親からの手紙。がイーストシティの到着した日にロイのもとへ届けられたその続き。
「私がおばさまにお願いしたの。こっちは折を見て私が渡すって。
結局のところおばさまは、私たちの意志を尊重するっておっしゃってた。」
その手紙にはこのように書かれていた。
ロイ、婚約のことだけどもしあなたに大切な人がいるのなら、泣かせたくない方がいるのならちゃんとの婚約は
無かったことにします。このことはちゃんも了承済みです。
また、ちゃんが今のあなたをみて、婚約のことが嫌になったのならそれでもいい。
私の言い出したことはただの“きっかけ”として使ってほしいの。
私はあなたたちに任せます。
それとね、ロイ
「ん?この続きはないのか?」
「あ、それがねおばさま笑っててその先の紙くれなかったのよ。」
そこだけは腑に落ちないが確かに、母親らしい。
自分の望みで周りを引っ掻き回すことはあってもその周りが真実嫌な思いはしないように、なにかしら手を打ってある。
「それで?これを俺に見せたということはは破棄したい、ということか?」
「しなきゃだめでしょう。このまま居たら私はあなたの枷になる。」
状況をみて諦めきったような微笑だった。それを見て、なぜかロイは無性に腹が立った。
キーンと口付けているところを見たときとは別の怒り。
「俺は、他の女性の前では“俺”とは言わない。」
「?」
「俺ががキーンに口付けられているところをみてどう思ったか知っているか。」
疑問ではない、誰にとも無くしゃべり続けつロイ。
否、に対してではあるんだが、感情と行動がついていかないのかもしれない。
「それが、何なのか。やっとわかったよ。“妬み”だ。
俺は軍人と言う立場も忘れてあいつを殺そうかと思った!一番苦しい方法で、最期まで奴が苦しむような方法で!」
「…ロ、イ?何を言ってるかわかってるの?」
「ああ!!分かっている!俺は、」
「それは、まるで、私に恋情を。……告白みたいじゃない。」
最後の方、の声は涙声になっていた。
「みたい、じゃない。しているんだ。…全く、こんな様にならない告白したのは初めてだよ。」
幾分、照れくさそうにロイは苦笑し、言う。
「わ、たしは、枷になる。きっと、歯止めに…」
「そういう枷が俺に必要なんだ。」
そう言って、ロイは泣きながら蹲っているを包み込むように抱き寄せた。
どのくらいそうしただろうか。そんな時間も分からないほど二人は抱き合っていた。そして、不意にが笑い出した。
「こうなってみると、あの男にキスされたのなんて事故でしかないわね。」
「?どういう意味だ?」
「ん?簡単な話よ。アレ、私のファーストキスだったのよ。」
からからと、どうでもいい事のように話す。その言葉にロイは固まる。
「は?ちょっと待て。お前、今年で確か…」
「そうよ、24歳よ。でも、なんかねー男の人とあまり付き合ったことが無いっていうか長続きしなかったのよ。」
つまり、キスまで行かないほど付き合いは短かった、と。
それもそうだろう。が付き合ってきたのは田舎の男たち。ロイとの共通の知りあいであった。
は臆面も無くロイのことを話し、心配し、思い出しては当時付き合っていた男たちに話していたのだから。
それを知らないロイは愕然としまた、同時にキーンに対し殺意も沸いていた。
「でも、そんな最初を忘れるくらい、それ以上に思い出に残ること。ロイがしてくれるんでしょ?」
そう言ってロイを見上げたは少し恥ずかしいのだろう。その表情には恥じらいが伺われた。
そのにどうしても抑えられなかったロイはそのまま、に口付けていた。キーンのことなど忘れさせるほど激しく。
そのロイの頭の片隅で、最初はやさしくする予定だったことがちらりと掠めたが、実際にやさしくするのはまた、別の話。
同時刻、東部の田舎である婦人が一通の手紙を投函した。遠いところにいる息子ともしかしたら義理の娘なるかもしれない娘にあてて。
「ふふ、きっとあの二人くっつくわね。でなきゃ、発破かけた意味ってものがないもの。
それに、あの二人にはちょうどいいわ。
この手紙が届くころにはきっと、落ち着いてるでしょう。」
それとね、ロイ。あなたにはいい機会よ。ちゃんを一人の女としてみる、ね。
それは、ちゃんにとっても同じこと。
あなたには枷になるほどの存在がどうしても必要なのよ。
そうそう、孫は二人がいいわ。
それじゃあ、体に気をつけてね。
そうそう、ちゃんにあまり無理をさせない程度にしておきなさいね。
夜の営みは。
余談だが、この手紙がロイとの元へ届いたのは二人が同衾した翌日だったとか。
それもまた、別の話。
Fin
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