タイトル『選択が救いになる』
“お母さん”
そう彼は呟いた。彼らにとっての“母”は、居場所、だったのだと思う。自分たちを、何の見返りもなく確約もなく、
受け入れてくれる、受け止めてくれる場所。
だから、
失うには早過ぎた。それを理解するには早すぎて、でも、それを越えるための知識や方法を知っていた。
“錬金術”という名の方法を。
今、私の前には墓標。彼らの母。ホーエンハイムの唯一の、妻。
誰のとった行動が正しいのか、間違いなのか、そんなのは結局、結果が出てからくだされる。あなたは何を望みましたか?
出て行ったホーエンハイムを憎むでもなく、子供らを慈しみ続け、あなたのような“母”を、ホーエンハイムのように想い続けている“父”を私は欲したのかもしれません。
墓標の前にどれ位いたのだろうか。遠くから犬の声がした。それと共に、かちゃかちゃという金属音。
「おや?あんたは……」
片足が金属である犬を引き連れた老婆が近づく。片手に花を携えて。
「こんにちは。今日は命日らしいですね、彼の代理です。花も何も持ってきてはいないのですが。」
「そうかい。ホーエンハイムの縁の者なんだね。
大丈夫、そんなのトリシャは気にしやぁしないよ。そういう人だったさ。」
「そう、ですか。」
彼女のいった、そんなの、はどこに掛かっているのだろう。花を持ってこなかった事?それとも、ホーエンハイムに
若い娘の知り合いがいた事?一瞬よぎった疑問が、すんなりとは返答させてくれなかった。
それでも、違和感はなかったと、思っていたのに、
「どちらも、さ。」
意地の悪いような、唇を上げた笑い方を見て、本当に最強なのはこの人かもしれない、と思った。この人があの子達を一番近くで見守っていた人。
そう、改めて思った。
あの子達は、こんなにも恵まれているのだ、と。
だからこそ、羨ましい。
うらやましい。
ネタマシイ。
「行くのかい?」
行こう、と思った時だった。この人は、心でも読めるのか?
「……ええ。」
「次に来る時は、私の家にでも立ち寄りな。そこの、ロックベルっていう鎧機械のところだよ。」
「ええ、是非。ホーエンハイムたちと共に行きますよ。それでは。」
人は出会い、別れる。
繰り返し、繰り返し。その縁がどこで、どのように繋がるかはわからないけれど。
出逢って、話をして、縁が出来る。何かが変わるかもしれない、変わらないかもしれない、それでも、
そうして過ごした“時”は決して、無駄ではないと思いたい。
無為ではないと思いたい。
そうしないと、私は、耐えられないから。自分を保てなくなるの。
先を見ていないと、過去に囚われ続けていると、
壊れてしまうの。何かが。
だから、過去にこだわり続けているあの子達を見ていると、無性に苛立たしい。そういう気持なのだと思う。あまり自覚しないようにしているけれど。
ほら、また。人の言葉に惑わされて、過去を疑っている、不安定な子が一人。
ここは、病院の屋上?
見える、
感じる、
アノ子のことばが、嘆きが、叫びが。
そして、
暗転。
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『スカーさん。』
聞こえる。ここではないところから、
『僕が人間に見えますか、こんな、体の。』
見える。鎧の眼窩から揺れる光が。
ここは、
ここは、
「……どこ。」
目を開ければ、見慣れぬ布。テントのようだ。外からは人の気配。割合多めの。
「気付いたかの?」
老人がテントの入り口から見えた。褐色の肌と、赤い瞳。
「ここは、イシュヴァールの居住地、か。」
「ああ、そうじゃよ。しかし、驚いたよ。」
「?」
「ワシらを、否、お嬢さんが川から流れてきた時にはな。」
川から、流れてきた。最後の記憶は、中央へ向かう途中で……途切れた。
声に流されたか。
「失礼、ご老人。ここは、中央からどのくらい離れている?」
「ん?なに、市街地のそのまた端、というところかね。」
場所は一応、中央。
当たり前、か。あの声は、間違いなくアノ子の。兄弟は今、中央へいるのだから流されたのだとしてもその近辺にたどり着く、はず。
「ところでお嬢さん、名前を教えてもらっても良いかの?」
「ええ、、と。」
「殿じゃな。ふむ、何、ここには我らの部族が少人数いるだけじゃ。気兼ねせんとゆっくり治しなさい。
最近は、こういう拾いものが多いんじゃよ。」
スカーのことを言っているのだとすぐにわかった。
しかし、妙な縁がここにできたものだ。さて、どうするのが得策か。ここにいるか、もしくは。
思案していると外が、多少騒がしい。
「ん?どうやらお使いから帰ってきたようじゃの。」
「……様子がおかしい。」
「ん?」
ご老人が外へ出たので、自分の体を確かめる。
傷自体はたいしたことない。擦り傷くらいだ。
これからどうするか。ここはイシュヴァールの難民達の集落。このままここにいるわけにはいかない。
ホーエンハイムとの約束もある。兄弟の側にいたほうが良い。
が、コレも何かの縁、と思う自分がいる。
いる。前までそんな事思わなかったのに。なんでだろう。
どうして。なぜ?
ソレハ単ナル気紛レダッタノニ。
「っ??」
何だろう、外が騒がしい。耳を澄ます。
どうやらイシュヴァールの兄弟の一人が攫われたらしい。それにこの声……
スカーとアルフォンス・エルリック。
攫われたほうが、リック、今外で助けに行くとか叫んでいるのがレオ、か。アルフォンスの方は何か、
澱んでいる。ああ、66に言われた事を悩んでいるのか。それにリックとレオにも色々、あるみたい、だな。
「とにかく、俺はリックを助けに行く!!」
「一人じゃ無理だよ。僕も行く。」
「落ち着くんじゃ、二人とも。」
漏れ聞こえる、声。
出て行くことはない。アルフォンスのほうには、今の姿は見られていない。スカーにさえ気をつけていればばれる事は、ない。
このまま、ここにいるのが得策。
得策、なのだ。
なのに、手が、足が進む。
きっと、これも何かの、気紛れ。
「……行くのなら私も行こう。アルフォンス・エルリック。」
選択。選ぶ、こと。生きることはいつだってソレの繰り返し。
後で後悔しても、その時、自分が選んだという事実が、私を救う。
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