タイトル『うたう容疑者』

私がその場にたどり着いたとき、彼は虫の息で片手に家族写真を握っていた。
 すぐ近くには拳銃。

 悟った。そうか、最悪の結果だったのか。撃てなかったのね、彼女を。曖昧な目が、私を見上げた。
 聞こえているだろうか。最期の旅路へと向っていく彼に私の声は。


 「望みは、何?」

 聞けば、なぜか微笑む彼。それは写真の中の家族へ向けるそれと同じ。なぜソレが、私に向けられるのだろうか。

 「……」
 呟く彼の名に、私は愕然とした。そして、笑む。最期を見送るのだからせめて、彼の望む者でありたかったから。
私も最期には、そう望むから。


 「あなた。何をして欲しいですか?」

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 「〜〜♪〜〜♪」
 「随分とご機嫌ね、エンヴィー。」
 「ご機嫌、ご機嫌。」

 その頃、ホムンクルスたちは先程まで、の居たところにいた。一際、血が溜まっている所を見ながら鼻歌を歌う。
 「面白い玩具、見つけちゃったな〜。鋼のおちびさんとは別に。

  イジメ甲斐ありそうだな〜♪」
 「全く、相変わらずの被虐趣味ね。」
 ラストはさも呆れたように、エンヴィーを見る。
 地についているまだ固まっていない血を指で掬い口に含む。

 「さて、次は何してやろうか?」


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 その壮烈を目にしたとき、何とも気鬱であった。否、楽しげな葬列など不謹慎極まりないのだが、列者のものがほとんど軍服
ばかりというのが余計に暗鬱さを醸し出していた。外套を頭からかぶりその内から、見た葬列はそんな感じだった。

 (見つけた。行き違いにならなくて、よかった。)

 珍しく正装した男が一人。いつもは額に掛かっている髪を上げ真新しい墓石の前に佇む。
 男は、亡くなったものの親友であった。

 近付く、私。一歩近付いていくごとに、距離が縮まる毎に、聞こえてくる言葉がある。

 「エルリック兄弟のことをなぜ、私に報告しなかった!」

 一歩、近付く。

 「ご存知ではなかったのですか?」

 また、一歩。男の慟哭が響いてくる。

 「大佐はあの兄弟のこととなると、我を失いがちになります。」

 一歩。
 
 「何?」

 振り返った男の目に、恐らく私も映ったのであろう。

 「だから、ヒューズ准将は、」
 一歩。未だ気付かぬ、女のすぐ背後にまで近付く。

 「あの男はあなたに何も告げなかったのよ。あなたの懸念が少しでも減るように。
 安心して上に、行けるように。」

 背後の声で初めて私に気付いた女が、スカートのベルトから拳銃を取り出した。動揺もあっただろうに、
その素早さは賞賛に値する。でも、
 「残念。」
 「なっ!?」
 リボルバー式の拳銃は、その弾の数の少なさとそこを押さえる事で引き金が引けないことが弱点だった。

 「何もしない。ただ、告げに来ただけ。」

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 彼女が、だと気付いたのは中尉へ言葉を発した時だった。振り向いた時、外套を深く被った者がいた時には、
気配のなさとその異様な装束に目がついただけであった。黒い外套、黒い服。葬列にふさわしい喪服。だが、外套から覗く髪は
白。

 その白を、俺は知っていた。

 そこへ至るのと彼女が声を発したのが同時だった。は、俺に告げに来たのだという。
 
 表情は見えない。

 否、口元だけ見える。目深に被られた外套は彼女の鼻辺りまでを隠していた。
 見えるのは微笑。だが、ソレは。その笑みは。

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 「私は、気付いていた。彼が殺されるだろうことを。

 それでも、忠告以外、何も、しなかった。私のために。最期に会ったのは電話ボックス。

 虫の息だった。

 私は、助けを呼ぶ事もせず




  見殺しにしたのよ。」


 そう告げた、の告白に激怒しなかったわけではない。
 は、笑いながら言っていた。謳うような調子で笑いながら言っていたのだ。

 思わず手袋を嵌めて構えた俺をが、どんな顔で見ていたのか、直後に知ることになる。


 急に吹いた風は俺の後ろから吹き、の正面に当たった。外套がはらりと落ち、顔が見えた。
眼、が。
 見るのではなかった。

 激怒が、その眼に押さえ込まれるように不透明な感情となって、不快感が中に広がった。

 「何?その顔。」

 は口元に笑みを浮かべ、こちらに来る。銃から左手を離し舞うような軽やかな足つきで。

 は止まる。その場所は、焔の範囲内、


中心であった。

 「うたないの? 彼女の銃はごめんだけれども、あなたにはその権利があって、私に拒絶するものは、ないのよ?
 ロイ・マスタング。」

 「君は、最初に会ったときからそうだったな。
 どこか未来でも見据えているかのように振る舞い、自分はどこか高見の見物を決めていた。イシュヴァールの時からだ。
 そのような、人を試す、挑発するような口調もそのままだ。


 どこにも真実など、ないように。掴み所のないように振舞う、が、俺は……」

 「大佐!!」
 に向けていた手を下ろす俺に、戦意がないことを示す俺に中尉は批難の声をあげる。だが、彼女は知らない、見えない。
 がどのような表情でいるのかを。声だけはいつも通りでも、これは。

 「俺は、誰かの贖罪のために利用されるのはごめんだ。」

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『俺は、誰かの贖罪のために利用されるのはごめんだ。』

 別にその様な気はなかった。誰かの死ぬところなど今まで数え切れないほどだった。
 私が見殺しにしたのも、殺したのも数え切れないくらいにある。

 ああ、それでも、残ったものにこうして言いにきたのは、初めてだった。
 なぜ、そうしたのかはわからない。


 わからなかった。

 この男は、贖罪、という。


 そうか、私は、ホークアイにではなく、この男にならば


 殺されても、いい。そう思って来たのか。自分の中の罪悪感を消すために。

 すべては自己満足のために。

 この男に全身を焼かれても、死ぬことはないというのに。痛みを求めて罰して欲しくて来たのか。


 すべては自己満足のために。


 握り締めた。右手が痛い。傷が開いたのがわかる。それでも、この痛みでは誤魔化せないほどの痛みが内に


 ある。

これから、逃れるためにここに来たのか。なんて、なんて、


 「浅ましい。」


 その時、私は口元が笑みの形を取りながら眉間に皺を寄せるという、奇妙な顔を作っていることを自覚した。


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