タイトル『女と列車と兄弟と』
その日東方司令部は騒然としていた。というのも何事も無ければ良いと思っていた予想を簡単に裏切ってくれるような自体が起こったからだ。
ハクロ少将の乗ったでの列車ジャック。治安が悪いと知りつつ来る少将も考慮に欠けるが。案の定、司令部内での彼の評判は最悪なものとなっていた。
「乗っ取られたのはニューオプティン発特急〇四八四〇便。東部過激派「青の団」による犯行です。要求は現在収容中の彼等の指導者の解放。」
そんなありきたりな要求をロイは内心呆れながら聞いていた。声明もあるらしいが中身は予想に難くないゆえ見もせず却下。彼にとって一番大事なことは、
「―――で、本当に将軍閣下は乗ってるのか?」
これだけであった。彼の今後の昇進云々に関してはこのことは影響が大きい。できればガセであって欲しいがこういうことに限って当たるものであった。
今回もそうらしい。
そして、冗談半分本気半分で、将軍には尊い犠牲にだの、今日は夕方からデートの約束が、だの言っていたのだった。
だがフュリーの出した乗客名簿には(嫌なことに)確かに名があったのだった。
「まったく、東部の情勢が不安定なのは知っているだろうにこんなときにバカンスとは……」
呆れ返っていたのだがロイの目に馴染みの名前が目に入り、事件は簡単にしかもこちらが手を出さずとも解決する、と確信を得たのだった。
それを踏まえて嬉しそうに彼は言う。
「ああ、諸君、今日は思ったより早く帰れそうだ。
鋼の錬金術師が乗っている。」
と。
その日、は食材の買い物、飲み物の注文に行っていた。その帰りに妙な情報を得た。
『列車ジャック』
東部では情勢が安定していないためこういうことは多々ある。しかも、狙われた理由はその列車に将軍階級の軍人がいたことらしい。ジャックする犯人たちにも呆れるものがあるが
こんな状況でこちらに家族と共にバカンスに来る将軍も気が知れないとかなり呆れていた。
かさり、とに抱えている荷物のバランスが崩れた。袋の中身はこんなに必要なのか?と言いたくなるほどの大量なオレンジたち。あわやこぼれそうになったのをなんとか食い止めただがそのとき突然、脳裏に突き刺すような感覚。
頭に直接流れ込んでくる映像。
列車内、怒る少年と宥める鎧。車上に上り上からの奇襲と淡水車から練成し犯人を拘束するまでの流れ。
そのときのしてやったりな、少年の表情。金髪、金眼、赤いコートに、鎧にもコートにも記されている十字架に蛇の巻きついているフラメルの十字架。
流れ込んでくる情報には手に持っていた荷物を落としてしまう。折角先程の危機を免れたというのにそれは無駄になってしまった。オレンジが地面に衝突し、潰れていくのをは
頭の中を流れている映像とはべつのところではっきりと認識していた。
映像は途切れ、は汗と共に息を切らす。
「っはぁ、はぁはぁ。っ乗っているの?列車に。こちらに向かってる、のか。あの子達。」
の呟きに答えるものはいない。誰にも聞こえない程度の音量であったからだ。いきなりの衝撃に思わずは膝を着いた。
息も荒く、冷や汗も多い。だが、は決めいていた。行こう、と。駅に。あの兄弟たちが来るであろう、駅に。
「大丈夫か?」
あまりに辛そうなに通りすがりの者が声を掛ける。が、はそちらに一瞥をやっただけで走り出したのだった。後に残ったのはオレンジと呆気にとられた通行人だけだった。
ホームに問題の列車が到着し、兄弟はロイと会っていた。特に兄のほうは嫌そうな感じを隠すことなく表している。弟のほうは丁寧に挨拶をしていた。ロイだけでなくリザにも。
「何だね、その嫌そうな顔は。」
「くあ〜〜〜〜。大佐の管轄なら放っときゃよかった!!」
が駅に着いたとき、彼らのそういった声が聞こえてきた。
(あれが、エドワード・エルリック。あいつの息子。トリシャとの間の。)
かなり速く走ってきたはずなのにの息は乱れてはいなかった。エドワードを凝視し、思う。
(あの頃とあんまり変わっていない。弟は、相変わらず、みたいね。)
不図、は列車ジャックの主犯に目を向ける。何やら動きが怪しいのだった。すると案の定というか最後の悪あがきというか、男は仕込みナイフでロイたちへ向かっていった。
リザが対戦しようとしていたところをロイが止め手を構える。そして、ぱきんという音と共に焔をその男に浴びせたのだった。
その焔は見ためのインパクトが大きく、男も一見ひどくやられているように見えたが実際にはそれほどでもないものだった。
がソレを見たのは二回目。
以前はその力に、人を殺すことの出来る力に怯えていたのに、とは束の間、思いを過去に馳せる。
(随分と慣れたものね。まあ、それほど使ったということなんでしょうけど。)
何かを感じとったのかロイは視線をのほうへ移す。
「!??なぜここに。」
ロイにつられてエドワードや、アルフォンスもそちらに視線を移す。因みにリザは他のものへの指示に向かっていた。
「何だよ、大佐。知り合いなのか?」
「軍の人じゃないですよね?」
そんな兄弟達のほうへは向かう。本当は向かうべきではなかったのかもしれない。接点を持ってはいけないのかもしれない。
駅に向かったとき、それは一目確認できれば良い。そういう建前だった。だからそれが果たせた今、わざわざ向かうこともないのだ。が、抗えなかった。興味があったのだ。
自分に言い訳をしているうちにはロイたちのところまで来てしまった。会ってみたかった、話してみたかった、でも最初に言ったのは、
「派手にやったわね。」
というロイへのことばだった。
「そうかね?あの男も見かけほど大した怪我ではないさ。」
「この子達も派手だけど、あなたも派手よ。ね?エルリック兄弟。」
「!?」
初対面なのに知られていることにエルリック兄弟は警戒した。
「大丈夫だ。鋼の。こちらはといってなバーを経営している傍ら情報収集も営んでいる。それに君らは何かと派手だからな。」
「ふ〜ん。」
ロイにそう言われても警戒を解かないエドワード。まあ、確かに見知らぬ人に知られていて気持ちのいいものではあるまい。
「警戒心は必要よ。特にあなたはね。
これから先、何が真実でそうでないのか。その判断が曖昧になってくるのだと思うから。」
「???」
が何を言いたいのか釈然としないエドワード。は視線をアルフォンスのほうへ変え、おもむろに拳を腹のところへ持っていく。
がこぉん。
響く空洞音。
「「「!!!」」」
三者はそれぞれ焦ったが反対には冷静そのものだった。
「確認、ね。やっぱり中身ないまま、か。」
「てめぇ!何で!」
これに反応したのはエドワードだった。彼らが禁忌を犯したこと、その結果のことすべて他者が簡単に知ることなどできないはずだった。いくら情報を集めるものと言っても、だ。だからこそ、このことにはロイも驚いたし、に対しての疑念が生まれてのだった。激昂し掴みかからんというような勢いのエドワードの眼前にすっと人差し指を立てた手が向けられる。
そしてその手は、の口元へ。
「しーっ、内緒よ内緒。まだ、教えられない。でもあなたが私を思い出すことが出来ればきっとわかるわよ。
まあでも、あなたと会ったときとは姿が違うけどね。
それはロイ。あなたも同じ。その答えが出たときもう一度会うかもしれない。会わないかもしれないけれど。じゃあね、お三方。」
言いたいことだけ言って帰ろうとするにエドワードは食いつこうとしたがそれは、ハボックの迎えにより阻まれたのだった。
「なんなんだよ。あいつは!大佐!」
「食えない情報提供者。と思っているが、認識を変えよう。」
「……」
の残した言葉が三者の中で蠢いている。同時にロイは決めていた。前々から考えていたことだが今回のことでその決心がついたのだった。
について調べてみよう、と。
エドワードは以前会ったかどうか、どうにか思い出そうとしているのだが全く心当たりがなかった。それに気になるのは弟のほうであった。なぜか先程から黙ったままなのだ。
「おい、アル?大丈夫か?」
「…兄さん。」
「あ?」
「あの人、ボクの中身がないこと知っても三者って人間扱いしてくれた。」
鎧のみの存在はバケモノと取られることが多いにも関わらず、だ。そのことがアルフォンスのなかで特別に印象に残っていた。
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