タイトル『兄弟と査定と過去と』
「嫌な感じ。」
連日は店を閉めていた。と、いうのも現在東部には鋼の錬金術師が来ているからだ。彼らとの接触は極力控えていたほうが良い。あの駅でのことは置いといて。
それでも馴染みの客たちから催促、というか要望が多かったため近日中には営業を再開するつもりではいる。は今後のことを考えると彼等のいる間は開けたくはなかったのだがいたし方あるまい。彼等の動向は大体つかめていた。今は資料室内でドクター・マルコーについての痕跡を探している。
の目線は、新聞にだが頭の中では違う場面が映っていた。そこは東方司令部内。中央から“視察”という名目でお偉方が押しかけていた。そこには大総統キング・ブラッドレイ、バスク・グランをはじめマース・ヒューズ、アレックス・ルイ・アームストロングなど大それたメンバーがいた。
「本当に嫌な感じ。」
大総統付き秘書官とエドワード・エルリックの束の間の邂逅、そして紙面の端に映っているリオールの内情がの眉間に皺を寄せる原因となった。
はふぅとため息を付き眉間に指を当てる。皺を伸ばすように、だが実際は頭の中の映像を遮断するために。
いつでも、回線を開けておくと壊れてしまう。それはが身にしみて分かっていた。どう動くのか、それを見極めてからでないとも予測を付けられない。以前、ロイが言っていたがはもちろん先のことが分かるわけではない。
自身に送られてくる映像と情報、それらを組み合わせて可能性を滔々と述べているだけなのだ。今のところエルリック兄弟と中央、そしてロイに関することに集中して彼らに対応する回線を開けている。
(当の“あいつ”はまだこちらに連絡をよこさないことだし、ね。集めておいて無駄はないでしょ。)
ばさっと大して目を通しているわけでもない新聞をたたみ、買出しにでも出掛けようかと考えていたところ面白い情報が引っかかった。
それはどこかいたずら小僧を思わせる口調でイキイキとヒューズに語る。
『やってみたい査定があんだけど?』
「あらあら。」
くすり、と心底面白そうにそしては決めたのだった。
一方、東方司令部内では今年の査定について盛り上がっていた。異例の『戦闘査定』、しかもイシュヴァールの英雄と史上最年少の国家錬金術師の。
噂が噂のままならば良かったのだが、残念なことにここには今そういう状況を煽り且つ決定を下すことの出来る権力保持者が滞在中であった。
「おもしろそうだ、戦闘査定許可する。」
にこにこと一言で簡単に決定すたブラッドレイ。
「しかし!」
焦るロイに淡々とヒューズは告げる。
「全練兵場使用許可。これで周囲の被害も抑えられる。」
ぐっと詰まるロイに挑発するようにグランが告げる。
「自信がないわけでもあるまい?」
その一言に、ロイは戦闘査定を許可せざるをえなかった。
廊下にてロイは危ない発言をする。歩きながらの発言であるゆえ、聞き取られたらそれこそ彼の地位どころか身すら危うくなるというのに。
「ふん、今は指示に従うさ。私が全権を得るそのときまではな。」
「不穏当な発言は控えたほうがよろしいかと。」
「しっかし、なんでそんな大それたことを?」
束の間。そしてきっぱりと言う。
「もし私が大総統になったら、全軍女子の軍服をミニスカートにする!!」
ガッツポーズのロイにハボックは、一生付いてゆくと言い、縋りそして、リザはそんな二人を無視し一人さっさとその場を離れたのだった。
そんな3人は知らない。この会話を聞いているものがいたことなど。ソレは確かに聞いていた。屋外からその様子を見、音声も聞き、見届けていた。
「くすくす、あの時とは随分な違い。どこまで本気なんだか、でも。その野望で生きることを選んだのね。」
雨音が声を遮っていた。
『れっでぃーす&ぜんとるめーん!』
戦闘査定当日、司会者はもちろんヒューズ。その異常なテンションに周囲のものはこの戦闘査定での期待を膨らます。のだが、ヒューズの背後にはどう考えても関係の無さそうな巨大な看板。
今は布に覆われていて見えない。
が、一部のものは直感的に嫌な予感がした。あくまでなんとなくなのだが。
『お集まりの諸君!
そして、これが2歳になるうちのむすめだぁああ!』
はらり、と布が払われ現れたのは愛らしいヒューズの娘、エリシアのものっすごい大きな写真。登場と同時にヒューズは満足した表情であったが周囲からのブーイングの嵐。
それは野次ではなく物を投げるという実力行使。投げた人たちは軍部を辞めても過激派として活躍しそうです。
そして案の定、その攻撃に耐えられるわけもなく愛らしい娘は父親のほうへ飛び込んできたのだった。もちろん父親はその抱擁を避けるわけもなく。
『それでは気を取り直して本日のメインイベント!焔VS鋼の国家錬金術師対決!!』
気を取り直した父親に傷がちらほら見えたがここでは敢えて見なかったことにしよう。
『赤コーナー!!焔の錬金術師、ロイ・マスタング!!』
やる気無さそうに出てきたロイに周囲は歓声を、歓声を?
「うまいこと出世しやがって〜!!」
「俺の彼女返せ〜!!」
野次である。
「あらあら。随分なことだわね〜。」
周囲の軍人に混じって、明らかに場にそぐわない声。
『青コーナー!!鋼の錬金術師、エドワード・エルリック!!』
「うわ、ちっさー。」
「がんばれよ〜、豆粒〜!!」
一応、歓声と応援なのだが。
「おやおや。こちらもまた。どうしたものかね〜。」
くすくすと面白そうに歓声に応えているエドワードを見遣る。はこの時実感した。ここにきて良かった、と。
(や〜っぱり面白いもの見れたね。)
さて、どうして周囲のものがに違和感を抱かないのか。簡単だ。は周到にも軍服(本物)を身に付けてきているのだった。
『それでは、レディ…………ファイ!!』
即座にその場から離れ、というか逃げてヒューズは開始を告げる。ヒューズのこの行動は実に正解だった。呆気に取れれているエドワードに、
「遅い!!」
とロイは発火布からエドワードに攻撃を繰り出す。あたふたと逃げるエドワードに淡々と兵法を述べながら攻撃しているあたり余裕の現れだった。
そんな様子をは見ながら、かすかにぼやけつつある記憶に思いを馳せる。
あの頃はそんな余裕など全くなかった彼と今を見比べているのだった。
「うわぁ、何もないところから爆発が!」
「ん?大佐のアレ初めてか?」
どういう縁か隣にいたのはロイの部下達であった。銜え煙草の男がもう一人小柄な黒犬を抱いたものへ解説をしていた。
「大佐の手袋は発火布っつう特別な布で出来ていてな擦ると摩擦で火花が散る。あとはそこを酸素濃度を調整してボンっだそうだ。」
「へぇ〜。」
視線を練兵場に移す。確かにあの頃より加減が効いている。
それほど、使ったのだろう。人を殺していったのだろう、彼は慣れすぎていた。
「あら?」
思わず声を出してしまったのはこちら側にエドワードが飛び込んでロイの視界から姿を消してしまったためだ。しかも、気配がどんどんのほうへ近づいてきていた。
「ふむ、的が小さいとなかなかあたらないものだな。」
明らかなロイの挑発。だが、エドワードに限りこれは有効すぎるほど効いた。
「小さいって言うな!!」
「『怒らせてこれを乱せ』
適の挑発に乗ってはいけない。」
ぱきん、と無関係のものがいるにも関わらずロイは指を鳴らした。
「え?」
しかもそこはちょうど幸か不幸かのいるところでもあり、どかん、という爆発音と共には吹き飛んだのだった。
(あ〜らま、飛んでるわ〜。最後まで見たいのに。
ん?)
悠長なことを考えながら飛んでいる。見るものが見たら疑問に思うだろうに。その滞空時間が長いことと落下の気配がないことに。そして、それに気付いたものは一人。
その状態のとばっちり目が合ったのだった。それは最強の眼を持つもの。その視線を逸らさずには木の枝に着地する。そして、指を唇に当て述べた。
「 」
ソレを見届けた彼は、まるで今のことがなかったように眼を練兵場に戻したのだった。
(さて、高見の見物と決め込みましょ。)
練兵場ではロイがエドワードに最後の一撃をさそうとしていた。が、どうしたことか不意にロイに隙が生じたのだった。彼を未だに苛むモノが強襲したのだった。
その隙を逃すエドワードではなく、結局その場は引き分けとなった。もちろん二人には大総統より、後片付けの命令が下されたとか。
そこまで見届けたはふわり、と背を翻し消えていった。ちなみにコレは文字通りの意味である。
心中で彼女は脳内に新しい情報を加えていった。
エドワード・エルリック、マルコーの場所を知る、と。
そして目線を突然、彼方へと移す。
(何かが来た?血生臭い何か。
いいえ、追ってきた?なにかしら、この感じ。)
その夜、人知れぬ路地裏で兵士が殺された。内部を爆発したような惨い殺され方だったそうだ。ソレをやエルリック兄弟、ロイたちが知るのはこの後であった。
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