タイトル『“またね”というコトバの不確かさ』

あたり一面に腐臭が漂っていた。その中をはあてもなく真っ直ぐ歩き回る。かなり深部へと入っていったはずだ。
「ふう、もうどこかから出て行ったみたいね。」
一人呟き、その声が下水に反響する。その声に反応する人の気配も感じられない。
歩きを止め、視線を水のほうへ移す。歩道の間に流れていた水は、もはや水というものではなかった。黒く淀み、どこか粘着質を帯びている。
黒、というのは物を映す。そこへ姿を映し、諦めに似たため息をつく。その眼はもはや、漆黒ではありえなかった。
深緑へと変わり果て、髪の色ですら変化を始めていた。
元々、の容姿は黒い眼、黒い髪。髪の長さは背中の中ごろであった。ソレが今では、眼は深緑へ髪の色も白髪に近いほど、
長さは急激に伸びてきており腰のあたりまであった。
「もう、限界ね。


姿が、元に戻り始めてる。あいつの元へ。でも、その前にあの子達どうなっている?現状を知りたい。」

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場所は東方司令部。そこには一人急いで荷物をまとめるもの。この国の最高権力保持者。キング・ブラッドレイ。
その前には直立の姿勢で見守るもの、ロイ・マスタング。
「お戻りですか。」
「うむ。イーストシティにスカーが現れたとなると急にセントラルのことが気になっての。世話を掛けた。」
「その前に、処罰を。」
「ん?」
ロイの本題はこちらのほうであった。マルコーの逃走、その後の場所の隠匿、これらは軍という組織にには反したものだった。
相応の処罰が下されてしかるべきであった。
が、
「よくやった。」
大総統から漏れた言葉は、全くその反対であった。
「は?」
意図を掴めず、思わず聞き返してしまうロイに語る。
以前からマルコーを保護したかったこと、それを直属の上司であるバスク・グランが反対していたこと。これからのマルコーの身の振り方。
「しかし、」
「もう下がっても良い。」
何かいい下がろうとしたロイを一言で黙らせて退室させる。誰も居ない部屋で一人呟く。先程とは全く違った声音で。

「賢者の石は、存在せん。」


(賢者の石、ね。で?あの子達は、っと。)

別室で兄弟は二人並んでいた。兄の手にはマルコーからすれ違いざまに渡された、唯一の手掛かり。

「中央図書館第一分館
真実の奥の真実」

それを眺めつつエドワードは、軍には、ロイたちには内密にすることを決める。マルコーへの対応、ロックベル夫婦、イシュヴァール、
それらの出来事がエドワードに、不信感を抱かせたのだった。

何の処分もなく無事、エドワードたちのいる別室へとたどり着いたロイたち。
「で、お前達どうすんだよ。」
腕をなくしたエドワードと体半身なくなったアルフォンス。直そうにもエドワードには腕もなく。
「そうねえ、腕のないエドワード君なんて、」
「ただの口の悪い餓鬼っスからねえ。」
しみじみと呟くホークアイとハボック。
いつもならば、言い返すエドワードだが今回は何も言わなかった。ただ、訝しげに下から見上げるだけだった。
「取りあえず、うちんとこの鎧機械技師のところに行くよ。」
「ああ。いつか腕なくした子供が泣き叫んでいたな。痛いよ〜、痛いよ〜、助けて、おかあさ〜ん
ってな。」
聊か壊れたような気がするが、一応ロイの発言だった。先程、処罰から免れたためどこか壊れているのだろう。
その発言にすら、言い返さないエドワード。不信感は相当なものらしい。

とりあえず、兄弟達は腕を直しにリゼンブールへと向かうことになったの、だが護衛付き。
「だ〜からこのおっさんいらねえって。」
しかも、
「な〜にを言っておるか。我輩、全力を持ってエルリック兄弟を護衛しよう。」
護衛役はアレックス・ルイ・アームストロングだった。


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「つまり、兄弟はリゼンブール、大総統は中央、焔は東部。
マルコーは……ああ、食べられた。
そして、知られたのね。」
(第一分館、か。)
水面を見つめていたは不図、その視線を自身の髪に向けた。髪は、もはや足元まで伸び、真っ白になっていた。
髪を手に取り苦笑する。
「元に戻った。





行こう。」

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「そういや、大佐。あの女。」
「ん?なんだ鋼の。」
「駅で会った女。あいつ、大佐たちが来る前に『来た』『来る』って言った。」
「…」
旅立ち準備に戻ろうとしたエドワードはぼそりと、ロイに呟く。
ロックベル夫婦、イシュヴァール、それらは直接、軍に関係するため不信感にも繋がる。ただ、に関してはエドワードに
予備知識もなく接触も少なかった。むしろに関してはロイの問題だと判断したのだった。

去っていくエドワードを見送りながら、ロイは一人考える。
(来た?来る?一体、何が…)
「…佐、大佐。」
側でホークアイが呼びかけていた。それすら気付かずに考えていたロイ。
「あ、ああ。何だ、中…尉。」
「?大佐?」
妙なところで言葉が途切れ、ロイの視線がどことも定まっていない様子に不審に思うホークアイ。
ロイは見ていた。一体、いつからそこにいたのか、懐かしいあの戦場での邂逅。
再会。
『「来た」っていうのはあなた達、軍。「来る」っていうのは大総統秘書官。』
容姿は以前ロイが戦場で会った女。だが、言っている内容は正にロイの考えていた人物のこと。
、か?」
『そうとも言う。でもそれが、私のホントウの名前じゃない。
ねえ、ロイ。このまま行くと今度会うときには、あなたも私もきっといろんなことが変わりすぎている。』
「君は一体…なに」
「大佐?一体どうなさったんですか?」
ホークアイはロイが誰と話しているのかどこを見ているのか把握していなかった。
「な、に?」
『…今、ロイが見えているのはこの時の私に会っているから。
ねえ、もし、万が一。

今度会うとき、まだ私が見えていたら、その時は





だから、またね。』
そうして、ロイの前からの姿がどんどん薄くなっていき消えたのだった。
ロイはが最後に何を言っていたのか聞き取れなかった。


は知っていた。
また、という言葉ほど不確かなものはない。
それを確かなものと感じている人は、“明日”が来ることを信じている人だと。



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