タイトル『希薄依存、時々、存在』

ロイたちと別れたあとは西部へ来ていた。そこは一見平和そうな、鉱山だった。
はすっぽりと外套を頭から被っておりこれが中央であったらさぞかし怪しい者として連行され職務質問をうけたりするのだろう。
だが、誰も彼もがには目もくれなかった。活気はそれほど無いが、人通りは少ないわけではない。
それでも皆が皆、を素通りしていくのだった。
彼女のほうもそれに大した反応をとるわけでもなく、目的地へ向かっていった。どこにいるか、明確な住所はわからない。だが、“いる”と感じるところへ足を向ける。
そこに“彼”は確実にいるのだから。
(ここ、か。)
たどり着いた場所は、酒屋。扉を開けると、探し人はいた。カウンターにてブランデーをロックで
飲んでいた。は、脇目も振らずに直進していた。そうして、
「随分遠くへ来たのね。ホーエンハイム。」
「やあ、君も随分久しぶりだね。フィニ。」
周囲の者が、ホーエンハイムに視線を向けていたのならきっと気付いただろう。今まで何もいない場所に、
急に人が現れたのだ。
「随分、希薄になっていたね。誰にも呼ばせなかったのか?」
「…香りが増してる。そうそう、あなたの子供たちにあった。
どうする。聞く?話す?」
「う〜〜ん。君のしたいようにすればいい、フィニ。私は君の名前をまだ、呼ぶことができるからね。」
「うん。ありがとう。
ねえ、ホーエンハイム。」
「なんだね?」
「“またね”って言葉、久しぶりに使ったわ。」
「そうか。」
「…聞いて。これまでのこと、これからのこと。」

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ホーエンハイムと、彼に言うところのフィニ、が酒場から移動して半日後。
は、宿の寝床で寝ていた。どうやら同室であるらしいホーエンハイムは彼女の様子を見ていた。
思案する。これからのことを。
彼女の報告を踏まえて。
最善を考える。幾通りも、幾通りも。あらゆる場面を想定して。
「…」
ベッドに腰掛けていたホーエンハイムは一息つき、のほうへ向かう。
静かな寝息、存在すら消えてしまうかのような、希薄な存在。それが、彼女だった。
手を彼女の髪に伸ばす。癖のない真っ直ぐな髪は、真っ白だった。老婆のように、だが老婆以上の艶を持っている。
長さは腰のしたまで。
「起きているかい?フィニ。」
「…ええ。」
「考えたよ。何通りも、何百通りも。どう考えても君の言うとおりになりそうだ。」
「…」
「息子達を、頼む。」
「…その体で、居るのね?」
「ああ。コレは彼女と過ごした体だ。」
懐かしむように、慈しむように自身の体をみやるホーエムハイム。その様子を複雑な心境で見る。
そうして彼女は自身の体を見やる。目に見える髪は長く、白い。
ガラスに映る自身の目の色は深緑。
「中央へ行くわ。何かあったら呼んで、すぐに行くわ。あなたの居るところへ必ず。」
は手をホーエンハイムの頬に触れながら宙に浮いていた。そして、

“じゃあね”

という言葉を残して消えていった。
「そういえば、君はいつもそう言って別れるな。“またね”とは一度も聞いたこと無いよ。」
一時的な別れにも今生の別れにも、彼女は“また”という言葉を使わなかった。使えなかったのかもしれない。変わらないものなど無いのだから。
信じられないのだから。長い年月の間、彼女は知った。
人というものの短さを、生の長さを。
欲の深さを。
醜さを。
そして、そんな彼等を想う自身を。

所変わってここはリゼンブール。ピナコ・ロックベルは墓場に妙な人影を見た。長い白髪を持つ女のシルエット。彼女の居る場所は、孫のように思っている今はどこにいるかも
わからない兄弟の母のところ。故人の知己にしては年齢に合わず、この村でも見かけたことは無い。不審に思い、思わず声をかける。
「トリシャの知り合いかい?」
振り向く彼女の顔に、やはり見たことのないと思うピナコ。
「いいえ。ただ彼女の夫、そして子供たちに面識があるだけです。」
「そうかい。」
「きっと、またこちらに伺います。今度はホーエンハイムと共に。」
一陣の風が吹いて一瞬、彼女から目を逸らしてしまった。そのほんの僅かな間に女はいなくなっていた。


Created by DreamEditor