タイトル『ヒトの求める真実とヒトの望む虚構』

の目の前にには全焼というに相応しい廃墟。黄色い立ち入り禁止表すテーピング。きっと燃える前には貴重な書がたくさんあったんだろうに、
そう考えるとはやりきれなさを感じた。それまでに積み上げられてきた人々の歴史は簡単にこの世から抹消できる。
火を使い。だが、抹消する権利は誰にも、何ものにもない。歴史上で一番偉いのは、権力者ではないのだから。
その場に残る気配を辿る。最初に感じたのは息子達の気配。後、スカー、色欲、暴食。
(ここにマルコーの研究資料があったのなら、もう炭となっているはず。息子達は私よりも早くにここに居て、彼らが諦めることなどないから……)
何はともあれ、息子達の現在位置を知ることが先決だと思い、は意識を集中したのだった。

一方、中央のとある一室。その中で、兄はソファに横になり弟は兄に説得を続けていた。別の方法を探そう、と。
賢者の石の材料が人間、しかも相当数の。彼らがそれを知り、すんなりと受け入れるはずもない。は屋上から中の様子を窺っていた。
普通なら聞こえない音、見えない様子、それでもある一定の条件を越えた者に限りは知ることが出来る。
『禁忌を犯した人間ってのを神様はとことん嫌うらしい。』
エドワードの嫌気のさしたような自暴自棄直前のような台詞が聞こえた。
(おかしな話ね。いつでもあなた達は言っていたじゃない。等価交換、と。)
何かを得るためには相応の代償が必要、と。賢者の石を得るために相応の代償が人間の命であってもおかしくはない。それだけの効力があるのだから。
こんな時にだけ、現実に目を逸らしたがるのはやはり、子供だからなのだろうか。

そう考えが至ったが改めて思う。彼らはまだ子供なのだと。苦難が多くとも子供なのだと。まだまだ周囲の大人たちに頼っても許されるのだと、気付いていないのだ。
それにたいして、苛立ちを覚えるものたちもきっと周りには多いだろう。
(マリア・ロス少尉、ね。)
きっと彼女もその一人となるのだろう。下では弟の言葉に反発しカップが鎧の顔部分に当たって砕けた音がした。その現場に彼女も入ってきているようだ。
『これでいいんですか?ここでやめて後悔はないんですか?
あなたたちのやってきたことは簡単にあきらめられるものなんですか?』
淡々と、感情をこめずしかし、確認する声音。アルフォンスのようにただ、励ますのとは違う大人の言葉。
『あんたに何がわかる。』
会話を聞いていく内に彼女達も賢者の石について関わっていることが聞き取れた。否、関わらされたとも言うべきか。ここで彼女が知ったことでこの先どうなるのか。
『怖いんでしょ?答えがないと、知ることが。

認めたくないんでしょう?意味がなくなってしまうのを。』


『意味がなくたっていいじゃありませんか。それを確かめてみることだけでも。
もう少しがんばってみませんか?エドワードさん。』

からはロス少尉の声しか届いていない。顔も分からない。彼女はの条件に当てはまっていないからだ。だからこそ、この言葉はエドワードのみではなく、
にも響いたのだった。の中に確実に感じたことはマリア・ロスという人物に対する興味だった。
(私も怖かった。認めたくなかった。過去を。まだ、名前のあるときのこと。
意味がなくてもいい、か。)
ふと、は思い出す。あの戦禍を、イシュヴァール殲滅線の折、ロイを助けたことを。目の前に現れたことを。
あれこそ、意味のないものだった。放っておいても構わないはずで対して興味もなかったのになぜかいかなければいけない気がした。
一度目は今にも死にそうな目をしていた。
二度目は今にも殺されそうな場面だった。何かに惹かれた。一体何に?黒髪黒目、生死の間。
(ああ、そうか。
いつだったかもう思い出せないけれど私にも似たようなことがあったのね。)
そうして視線を東方に向け、意識を集中する。確実な条件を満たしてはいないけれど少しなら感じとることが出来る。

『まだ、の情報は見つからないのか。』
(探している、私を。私が何なのか知らないものが探している。何の見返りもなく…?)
思いを馳せていると、何かの気配に現実へ戻された。
(ああ、来たのね。スカー。)

階下でも(といってもここは屋根の上だから語弊があるかもしれないが)新しい動きがあったようだ。彼らは第5研究所に眼をつけ、ロス少尉たちの目をかいくぐり窓から抜け出していた。
(ロス少尉の気も知らず、勝手な行動。でも自分達はそうは思っていない、か。やっぱり子供なのね。周りがどう思うかなんて気にもかけない。)
彼らを見送って間もなく、スカーが現れた。銃声、騒音、静かなはずの図書館は一気に騒然とした。
エルリック兄弟のいた部屋に突入するスカー。彼がそこで見たのは、散乱した紙類と一人の女。
「はやかったのね。スカー。」
「貴様……あの時の!?」
最初、スカーはその女に見覚えはなかった。白髪に近い、銀髪、深緑の目、だが女のほうは自身を知っているかのような口ぶりだった。
軽い既知感。髪を黒くしもう少し短くすれば、それはイーストシティで不審な行動を起していた女に重なった。
「ここに息子達はもういない。残念だったねぇ。」
「行き先は、どこだ。」
右腕を翳しながら一歩一歩、の座っているソファへ近づく。近づいてくるスカーに微笑を浮かべながら机の上を指す。
「あなたになら分かる。その腕が導いてくれる。あの戦争が何だったのかも多分、知ることが出来るし彼女の正体も分かる。

会ったのでしょう?似て非なる彼女に。」
「貴様、一体。」
「ある意味で彼女達の母親、でも、ホントは単なる門番みたいなもの。」
怪訝な表情でを見遣るスカー。
「知りたくないの?真実を。」
目線で、資料を促す。そこにはある、と。真実に近いものたち、エルリック兄弟の行き先が。
「!?」
右腕が光りだしたかとおもうと資料が文字達の浮かぶ球体へとかわり、スカーへ情報を渡したのだった。
「鋼はこれを知ったのか。」
「そう、賢者の石の材料は生きた人間。行き先は第5研究所。」
スカーの背後から人が迫ってくるのが感じられた。そしてを気にしながらもスカーはの隣を抜け外へ飛び出したのだった。
スカーを追って入ってきたのはロス少尉たち。そこで彼女らはエルリック兄弟が第5研究所へと向かったのを知ったのだった。
その部屋には、がいた。スカーのいたときと寸分違わぬ場所に。それでも彼女達はに気付くことなく部屋から出て行ったのだった。
「意味のない真実か、意味のある虚偽。

?何を言っているんだろうね、私。」
遠い昔、贄にされた少女がいた。村人の安心のためという真実を、神の元へ行くという虚偽で覆われていた。
少女の存在意味は、村人のため。それ以外はなかった。彼女は生贄にされたその直前に自身の中の事実が虚偽であることを知った。そして真実も。

「真実なんて碌なものじゃないのに、ヒトはそれを求め。
後悔する。私もした、ような気がする。」


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