タイトル『紅玉の涙第二章1』
第二章
妓楼での戯れからちょうど一日後。
尚隆は、玄英宮で昨夜のことを思い出していた。
少年のような格好をしていた子が実際は少女だった。それはいい。予想通り、というか確信があった。それを確かめるための過程も――一部を除き――予定通りだった。ただ、彼女の流した涙。あれは想定外だった。いったい誰が、涙が玉に変わると予想できるだろうか。
「ふう。どうしたものかな。」
ため息をつき、苦笑じみているような言葉を発するもその表情はどこか現状を楽しんでいるようだった。その手の中には、紅玉が一粒、弄ばれていた。
少しばかり時は前に遡る。
ところかわってここは関弓。そのなかの妓楼の一郭。昨晩の尚隆の相手、は、女将から休みをもらってした働きのものたちの部屋にいた。今日もは働く予定だったのだが。今朝、上機嫌?な女将から言われたのだ。
「!今日はあんた仕事、休みでいいからね。」
「?なぜですか?」
にやり、と。そう、にやりと女将は笑ったのだ。
「昨夜のお客様がね、たいへん満足したそうだよ。それに――。」
その先の女将の言葉を思い出すとは憤死しそうになった。そうして、仕事が休みなのは良いが、他のものは普通に働いている時刻。どうしても手持ち無沙汰になってしまう。そうすると、自然と思い出されるのは昨夜のことで――。
つまるところ、この二人、時間差はあれど思い出すのは同じことなのであった。
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『これは、玉か?』
尚隆がそう述べたときは、臥牀のうえでまるで胎児のように丸くなった。震えと共に。己の両腕でしっかりと自身を包み。
それを見ていた尚隆は、己の上着をの上に掛けてやり、彼、否、彼女が落ち着くのを待った。
どの位の時が経ったのか、は尚隆に問う。
『なぜ、なにもしない。』
『なにか、されたいのか?」
いつものように軽口をたたく尚隆。
『禅問答だ。』
今度はしっかりとした声で答えた。臥牀から起き上がり尚隆と正面に顔をあわせていた。
『確かにな。……ではお前は俺が聞けば答えるのか。』
『客の望みならば。』
まっすぐに尚隆を見据えながら答える。
『ふむ。確かに俺はお前のことが知りたい。が、俺のことも知って欲しいのだ。』
『は?』
わからぬか?そう言いながら尚隆はの輪郭を手で包む。
『男女の仲とは、そうして深まっていくものだ。』
『………離せ。』
『くく。表情には変化はないが、脈は速くなったようだぞ。』
尚隆の手は大きい。そして、の顔は、小さいのだ。輪郭を包まれている状況というのはもちろん、首にまで手は行っているということで。首には頚動脈があるわけで。
『なっ!』
今度は表情にも表れて朱に染まったのであった。
その変化を間近で、一部始終見ていたため尚隆はとうとう吹き出し、爆笑したのであった。
尚隆は思う存分笑いつくしたのか、一度深呼吸をすると、のほうへ向き直った。
『さて、自己紹介からといこうか。俺は、尚隆。おまえは?、というのは偽名だろう。』
そこで、は疑問に思った。
『?風漢、というように聞いているが。』
『ああ。街ではそう名のっている。が、お前にはこちらの名を教えておこう。』
釈然といはしないのだが、自分も偽名をもちいて、しかも性別まで偽っているため敢えて聞こうとはは思わなかった。
『私が名のる前に教えて欲しい。』
ちらりと、をみて杯で先をうながす。
『なぜ、女だとわかった?自慢ではないがばれたことなど、一度を除きなかったぞ。』
『ほう。そうか。ではその気付いたやつと俺以外は見る目がなかったのさ』
酒を一気に飲み干し、その手をに向ける。
『お前は女だ。どんなに隠そうとしていてもな。男にはないものが女にはある。…これは俺の持論だが、それをお前はもっていた。』
『よく、分からないな。』
『だろうな。で?名は?』
ちらりと、尚隆の徳利をみる。ちょうど空になっている。
『酒を、新しいのをもってこよう。』
『……その姿でか?』
そうして気付く。自分の服が胸元で切れており中が半分見えていることに。
『っ!』
あわててその箇所に両手を合わせるが、そうしたところで解決にも何にもならないのであった。
『?』
『酒を、もってくるのだろう?』
突然頭から掛けられた布。それは尚隆の上着であった。それを纏う。自分とは違う、香が己を包む。その感覚は言いようもなく、なんとなく居心地が悪いようなそんな感じであった。
出入り口に立ち、取っ手にてをかけようとしたであったが不意に尚隆の方へふりむく。
『…。』
『?なんだ?』
『。私の名前。』
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なぜ、尚隆に名乗ったのか、それが今のの疑問であった。教えたことを後悔していたわけではない。あの状況で尚隆が自分を手篭めにしなかったことが尚隆に名を明かすことの要因になっていたのだろう。
と、そう思いたかった。今朝の女将の言葉を聞くまでは。
『昨夜のお客様がね、たいへん満足したそうだよ。それに今日は腰痛で仕事どころではないだろうからって。』
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