タイトル『紅玉の涙第三章1』

にはソレが夢だとわかっていた。その続きがどうなるかも、わかっていた。
それが、彼女の過去だからだ。その続きがどうなっているのかわかっていてもはみつづけた。
もういない、彼らに会うのはこうするしかないからだ。彼女の過去の中に生きるしか、彼らには術がなく、この夢を見た後
ひどく自身が落ち込むことを知っていながらも彼女もまた、ソレを見ることを望んでいるのだった。




目を覚ますと、は豪華な臥牀にいた。なぜこんなところにいるんだろう?と思いながらしかし、その感覚はすぐにどこかへ行ってしまった。
そう、確かに自分はここに住んでいる………否、飼われている。
こんなに豪華なところはこの国――戴極国でも、唯一。それもそのはず。
ここは、戴国の王宮。飼っている主は、それは。

「紅玉さま。主上がお呼びで御座いまず。」
戴国、王、名を藍紫といった。彼は、に「紅玉」と名づけた。その名を自身がどう感じているかももちろん熟知している。
起きてはすぐに呼び出され、帰りは深夜。もしくは夜更けがほとんど。その毎日の繰り返し。
は自身がどこの生まれか知らなかった。ただ、自分が特異であることはわかっていた。
その昔、どこかの国で蝕が起こった。そして、その時に卵果が流れた。そこまではよくある話。ただ、同時期にこの戴国でも蝕が起こった。
それも、玉泉で。そのときはちょうど玉の産出期であった。そして、どこでどうなったかは未だに不明だがある一つの卵果が戴国の岸に流れ着いた。
その状態から、既に死んでいると思われた。が色も異常であった。赤い色。その殻に少し皹を入れてやればなんとかではあるが中から、
出てこようともがいている節があった。
そうして、産声を上げて生まれたのが、であった。

「主上。紅玉さまをお連れいたしました。」
許可を得て入るその部屋は、いっそ悪趣味なほど玉で覆いつくされていた。
戴国が玉の産地であり歴代の王もそのせいで道を踏み誤ったものも多い。それと今回、違うのはの存在。
「紅玉、近うよれ。」
その声には動かず、扉付近に佇んだままだった。連れてきた女官は既に退出をしており、その時にをちらりと見ていった。皆、これから何が起こるのかを知っている。だが、だれも止めようともしない。もし、が助けを求めても誰も入室することはない。もし、もし、もし…いくらかの仮定を考えてみても誰も止められはしないのだった。そう、泰麟であっても。
「紅玉、聞こえぬのか。」
泰麟が臥せっていることは誰もが知っていた。そしてそれが、病によるものだということも。
「主上。申し上げます。もう、私になどお構いなさいますな。どうか、戴国の民のためにも御政務を…っ」
やっと発したの声は、乾いた音とともに途切れた。
「我は主がしゃべることは許しておらぬ。近くに来い、と言うておるのだ。」
それでも、は動かない。
「くっ、よほど泣かされたいらしいな。」
その言葉にの表情に、苦渋がうかぶ。
一歩、一歩近づいてくる藍紫。を確実に追い詰める。そして、壁際にまで追い詰めおもむろにの首筋にその唇を寄せる。








「それとも、啼かされたいのか」






疑問ではない。確認でもない。
これから行われる行為。何の意味も持たない行為。否、藍紫のほうには確かな意味があった。
何よりも高質な玉を得るための。
涙型の赤い玉を。より多く得るために。

を泣かせることで、涙を流させることで。


彼の部屋は、自国で産出し加工されたものの他に多く目立ったものがあった。赤い紅い、決して大きいとは言えないが良質な玉。
それらは樽という樽、容器と言う容器に溢れるほどに詰められていた。
は最初、ここへつれてこられたときに殺されるはずだった。人妖として。だが、泰麟の諌め、忠告が奏を成し命がとどめられたのだった。
そして、王に目をつけられた。最初は、恩返しのつもりで涙を流していた。が、状況は変わる。
彼は、より多くの玉を欲した。そのため、最初のほうはに肉体的な苦痛を与えていた。そのせいか、の体には小さな傷跡が其処彼処にあった。
今でも。
それでも飽き足らなかったのか、もしくはその痛みに耐性を持つようになったにきづいたのか、彼は手法を変えた。

すなわち、精神的な苦痛へと。

辱めを受けさせたのだった。最初は飲み物に薬を混ぜて。その薬は意識のみ覚醒状態で肉体の動きは封じているもの。それに加え、ある種の誘淫剤でもあった。すべてが終わったとき、彼女は行為の最中は決して涙を流さなかったのだが、泣いた。声も無く。ただ、泣いた。
そして、それは今日にいたり続けられていた。




与えられた部屋にもどる。逃げ出そうと思わないわけではなかった。だが、できない。助けてくれたのは泰麟。そして、その主である藍紫を堕落させた要因は自身にある。恩を仇で返すようなことになってのも、申し訳ないがには見届けなければならないように思われたのだった。それにしても、
(よりにもよって、紅玉と名づけるか)
自身の特異なことと直で結びつける名。には、そのときこの名しかなかったのだ。それ以前は、ただ娘としか呼ばれなかった。と、そこへ
『紅玉。』
床の中から声が聞こえた。その声に聞き覚えがあった。たしか、泰麟の女怪。
『台補からのご命令です。ここから、逃げなさい。』
「な、んで。泰麟はどうして。」
『台補は、余命が幾許もありません。ただ、あなただけでも、と。』
失道の病。それに起因するのは私の存在。それを詰るならわかる、だが逃がすとは?
『あなたは、まだ生きていたほうが良い。あなたを必要とするものもあらわれるかもしれない。あなた自身が幸せだと感じることができるようなことがあるかもしれない、だから、ここから逃げなさい。とのことでした。まだ私ならばあなたをせめて国外へ連れて行ける』
幸せ?
そんなものに自分がありつけるとは思えない。でも、なってみたいとは思う。
どうすればよい。私がここにいても、いなくてもこの国が滅びるのは必死。私がいて今以上にひどい状態でほろぶるか、少しはましな状態でほろびるか。
でも、泰麟。残していくことができるわけもない。助けてもらった。なのに、私のせいで死ぬ。なのに、こんな風に気遣わせているのは私。
「わかった。でも頼みがあるの。」












「主上の部屋にある私の涙をすべて、雲海に捨てて」




そうして、紅玉――は戴国から逃げた。



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