タイトル『白銀の刃』
人を寄せ付けず、庵に居を構えている娘が一人いる。
鳥や獣に囲まれていながら
そこには蟲が一匹もいない。
俺が近付いていても、蟲が寄り付かない。
「よう。元気にしてるか?。」
「ギンコ。また、飽きもせずこんなところに来たのか。何か持って来たんだろうな。」
それは疑問ではなく、確認だった。こんなところに居を構え、人嫌いとなると食糧の調達において十分とはいえない。
「そんなに不便なら里に降りればいいだろ。」
「人付き合いが煩わしい。酒もまだ、ある。」
酒好きは相変わらずらしい。徳利を傾けながらこちらを向いて言う。
その姿は、初めて会ったときから変わらない。
と、いうか、徳利を持っていない姿を見たことが無いのだが。
「食い物は持ってきていない、」
「帰れ。」
おいおい。食い物を持っていない俺に用はないのかよ。全く、変わらない。
最初に会ったときから今も。誰に対しても。その刃を向ける。自身にも。
「おいおい最後まで聞けよ。食い物は無いが、肴になる話は色々ある。」
「……蟲、か。」
「聞くか?」
こいつは、ある意味俺と同じ特殊体質。
俺が、蟲を引きつける体質であるように
は蟲を引きつけない体質であった。
それでも、には蟲が視える性質であった。
それが彼女にとって幸か不幸か、それは本人にしかわからない。
彼女が引きつけないのはある程度の距離だけだった。だからその範囲外ならには蟲が視えた。
それは遠く。
視える性質でありながら遠くにしか、見ることのできないは蟲を、
「話せ。」
近くで視たいのだろう。近くで見ることのできる人には、蟲が視えず彼女の苦悩を理解する事は、
出来なかった。
自然と彼女は人付き合いが疎遠になり、奇妙な事を言う彼女を人は遠ざける。
そして、人里はなれたところに庵を構えるようになった。
俺の体質も、の側では中和されるらしい。だから、
の気が済むまで酒にも付き合える。
酒肴に、気の済むまで。
蟲を愛でたいが近付くことができずに
人に理解して欲しく、話せば離れていった。
の両親ですら。
結果、誰に対しても己に対しても、
刃を向ける。その白銀に惹かれてくる物好きな蟲師が一人。
ま、そんなのは俺一人でいいがな。
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