タイトル『闇色と墓場』
思ってみればいつでもあいつの背中ばかり見ていた。
気付けば行き先も告げず目的も告げず、
その結果がこれじゃあ、私も馬鹿なものよねえ。のこと馬鹿にしてられないわね。
本日、9月29日は、松本乱菊副隊長の誕生日。例年ならばこの日は大抵3人で祝っていた。と乱菊、そして市丸。
藍染の謀反より約1ヶ月。今年の乱菊の誕生日はそんな過程を経て訪れたのだった。
「どうしよう。」
は悩んでいた。数年間、誕生日には市丸の贈り物やら何やらで悩んでいた。
(そういえば今年はギンの誕生日もそれどころじゃなかった。本人がいないんだもの。)
恋人であるギンが藍染と謀反を起こしたときは現世にいた。そして、彼の最後の場面にいたのは、乱菊であったということもは人づてに聞いたのだった。そのせいか、実感がないというのも事実。
ギンが居なくなって乱菊はともかくはやつれた。というのも、反逆者の恋人という立場であったために尋問を受けたのだった。しかも山本元柳斎重國、本人の手によって。その傷跡は大きく彼女は今、非番であった。結局彼女の疑惑が晴れたからであるが。そして、なんとか動けるようになったのが今日、9月29日だった。
「どうしよう。」
「何がだ?」
「うひゃぅぉ! 日番谷隊長!!」
突然背後に掛かった言葉に驚いたが何よりも驚いたのはその声が聞き馴染みのあるものだったからかもしれない。
「お、おう。具合はもういいのか。」
「ええ。」
は隊舎の端、普通なら誰も気付かないような場所に腰掛けていた。そこはまるで縁側のようなもので数人が横に並んで座ることもまた、どこかの隊長のように昼寝をすることも可能な場所であった。の隣に日番谷が座る。
「、辞令が出た。というよりも、お前の望んだことらしいな。」
その言葉はにとって予想できること。だが、人事部の対処の早さに思わず苦笑が出る。
「異動だ。」
「はい。」
そのときのの顔は晴れやかで、颯爽としていた。それは覚悟を決めたもの独特の。
「乱菊さん。」
すっかり辺りも暗くなりあたりは夕闇が迫っていた。乱菊も今日は非番だったらしくいつもの死魄装とは違うものだった。夜にもなればもう、空気も冷たくなりはじめていた。そんな中にどれほどいたのだろうか。彼女はどこを見るでもなくただ座っていた。そこは小さな丘。草原であった。短い草が冷たさを帯びはじめた風にそよいでいた。
「。もう大丈夫なの?」
が尋問を受けたことはすでにほとんどの死神に伝わっていた。
「ええ、乱菊さんどれくらいここにいたんですか?」
乱菊の隣には空の酒が数本落ちていた。それでも彼女は顔に赤みが少し差しているだけであった。言葉もしっかりしている。彼女の酒に付き合うことのできるザルな人物など限られてくる。市丸もその一人であった。
「去年、見つけた場所ですよね。」
その場所は流魂街を一望できる場所であった。今の時刻では街に明かりがついているのや煙の出ている生活観のある風景が見えていた。
「ギンもそのときはいっしょにいて。」
「そうね。……いったい、何を考えてるんだか。」
後半は呟きに近かった。普段なら人に決してこんな場面を見せることも無く毅然として姉御肌の乱菊。それでも内心はやはり複雑であることは確かだろう。流魂街からの付き合いで同期。しかも、
「今日のこの日ね、私とギンの会った日なのよ。」
「ええ。」
流魂街で育ったものに誕生日など無いほうが多い。それは治安の悪さもあるし人々にそれを祝うような余裕も無かったからだともいえる。
もそれは聞き及んでいた。ギン本人に聞いたのだった。それを聞いたときのの心境を彼はきっと分かっていたのだろう。
「ギンから聞いて、私正直複雑でした。乱菊さんは好きだけど、それは羨ましいこと、言い換えれば妬ましかったなあ。」
でも…
「きっとギンはそのことも分かっていたんでしょうから相当の性悪ですよね。それにまた、妬ましいです。私は何も知らなかった。それどころか全て人づてに聞いて。」
「そうね。あんたの言うことももっともだわ。」
「ギンは…帰ってきますかね?」
「……わからないわね。こればっかりは。」
多分、乱菊にもつかめない男だったのだ。市丸ギンは。にとっても。
先のことはわからない。ただ、決戦のときまでどうすればよいのか、どう時を有効に使うか。
「乱菊さん、誕生日プレゼント物品じゃないんです。」
「私にはあんた自身はプレゼントにならないわよ。」
以前は市丸へのプレゼントに悩み結局自身をあげた、という過去があった。それを懐かしがっている風な口調が乱菊にあった。
これ、といっては乱菊に一切れの紙を渡した。
「ん〜?ってこれ!あんた、本気なの!?」
紙には異動辞令。
を次週より十番隊より十一番隊へ異動とする。
護廷十三隊の中で最強の戦闘部隊。今までデスクワークを主としていた彼女にとってこれでは死ねというもの。
「私のけじめです。自身から望みました。」
「だからって、これじゃあ!」
「もう、いやなんです。弱いままでいるのも、結果のみを見るのも。
だから、私が今からどれだけ強くなるかわからないけれど。」
声が震えているように感じるのは決して乱菊の勘違いではないだろう。
「なら、なんであんたは今、泣いているのよ。」
はらはらと涙を流し続ける、それでも決意は変わらず。
「きっと聞いて欲しいんです。覚悟を。一人で思い続け、成し遂げようとするほどまだ、私は強くないから。その証人に乱菊さんってことで。
だからこの場所は、覚悟の場所。覚悟のない私の、墓場。」
乱菊には分かっていた。この覚悟は確かに、立派なもの。だが、現実問題実力は簡単につかない。
短期間には。
この子にはかわいそうだけれど、可能性はほぼ零に近い。
それどころか、任務中に死ぬ可能性が高い。
それでもこの子は変わろうとしている。良くなるかどうかもあやうい、一歩間違えば最悪の結果になるかもしれない。
「若いわね。年はとりたくないかも。どんどん消極的な考えに引き込まれるんだから。」
去年の今頃だったろうか。二人の女と一人の男がその丘に来ていた。
『お〜い、大丈夫かいな?』
男は女をおぶっていた。どうやら、女は酔いつぶれているようだ。
『飲ませすぎたわね。』
もう一方の女は全く酔っていないようだ。
『そやな。それにしても乱菊、また大きなったんやないか?それ。』
女の胸を指し男はいう。
『そうなのよ、もう寝るときとかどうしよってかんじなのよね。あ、そういえばが大きくなりたがってたわよ。』
『ほんまか?へ〜そりゃ良い事聞いたわ。』
『顔、やらしい。でも、なんでがそう思ったか、原因は私にあるのよね〜。』
『??』
今までのふざけた表情とは違い申し訳ないような顔になった女。
『私と一緒に居るとどうも周りには違いが目立つみたいでね。で、馬鹿な男がいったわけよ。絶壁って。』
背負われている女が反応を示した。どうやら意識はもどっているらしい。それを男が気付かないはずも無く、
『あほやなあ。
絶壁とちゃうこと俺がようしっとる。それにこれからどんどん大きなるさかい、無用の心配やで。なあ、。』
三人のこのような穏やかな会話がもう一度行われることをここにいる二人の女は秘かにだが、確かに願っていた。
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