タイトル『橙色の夕日』

「まったく、帰ってこないと思ったらやっぱり溜めてたのね、仕事。」
ため息混じりにはロイの仕事机を見る。
「それとも、ロイ。あなた、私との約束、破る気なの?」
それは、先日交わしたロイとの約束。
はれて正式な婚約者となった二人だったが、二人でどこにも出かけていなかった。
そのこと事態には不満は無かった。が、こういう状況を誰よりも面白がる人間が残念なことにここには集まっていた。

『そういえば、大佐、さんと出かけられたりなさらないんですか?』
事の発端は、フュリーのその一言。
『この忙しい中、そんな時間はないだろう。』
『大佐ー、そんなこと言ってるとさんに逃げられるっすよ。』
『お前と一緒にするな。』
何を当然なことを、と感じで答えたロイだったがそれがいけなかった。
ちょうどその時、いつものごとくが差し入れに来たのだった。
『こんにちは、今日はシフォンケーキを焼いてきたんだけれど…?どうかしました?』
の入室とともにハボックはに問う。
さん、大佐に連れて行ってもらいたいところとかないんすか?』
これは単なるハボックの好奇心だった。はいつもの大佐の相手とは違い彼に特別何も求めていなかった。が、そうはいっても人の欲求は無くなりはしない。がロイになにか強請るようなことは無いのか、単純に気になったのだった。
『ありますよ。』
そんな中、即答で面白がる人間には好都合なの答え。
『え?』
これに驚いたのはロイ自身。それもそうだろう。“婚約者”となってからはは何も言わなくなっていたのだから。
それからは、ハボック、フュリー、ファルマンの面白がるままに約束は取り付けられた。
因みにその日、ブレダは非番だった。

「はあ、無理ならあんな約束しなくてもいいのに。ねえ、リザ?」
同意を求め、問う。
するとと同じく苦笑を浮かべたリザが言う。
「しかたないわよ、に連れて行ってほしいところがあるなんて、私にも意外だったもの。」
「んー、連れて行って、というかついてきて欲しかったのよね。で、ロイは仮眠室?」
「ええ、先ほどまでは起きていたんだけれど。」
その言葉には昨晩のことを思い出す。
(だから、言ったのに。)
「?この書類…」
不図、目の前にあった書面に目をやるとどうも似た分野のものが多く未処理扱いで残っていた。それも、どうやらロイのサインだけが必要なのではない。
それももちろん必要なのだが、それまでにロイ自身がしなければならない過程があった。
最初目に付いたとき、一般人は見てはいけないものかと思い目を反らしたのだが、その場合リザが隠すだろう。それに目を背けようにもそこかしこに、似たものが散らばっていてはそれは徒労に終わるのだった。
「ああ、それね。どうも、大佐は苦手なものを残すようでいつも最後に苦労しているのよ。」
(これ、融合問題ね。不確定要素の想定と力学的エネルギーの解析。……個々ならロイ、得意なのよね。融合になるとアレだけど。)
一枚、紙を取って見ながらは妙案を思いついた。
「ねえ、リザ。」



二時間後。仮眠室は橙色の夕日に染まっていた。
その中へ、目頭を押さえながらは入り使用中のベッドを確認しそこへ近づく。そっと、足音を殺して。
ちなみにこの仮眠室はロイ専用らしい。そのため執務室とは扉続きになっている。
その寝顔をみると、いつも思ってしまう。
「犯罪でしょ。これで29歳なんて。」
おろした前髪が乱れ、いつもの余裕そうな表情もその寝顔のなかに消えてしまっている。
今、目の前にあるのはあどけないロイの、そのままの表情。
「んっ。」
夕日が眩しいのか、ロイの目蓋がひくつく。その表情に思わずは顔を赤らめる。
(……なんで思い出すかなー。)
確かにこのような声がしたのだ。寝ているときとは別に。
もっとも、その時のロイは余裕そうなことばと態度で、はそれに対して悔しい思いをしたのだった。その時は自身に余裕などかけらも無く、ましてや視界は閉じられたまま。
だから、幻聴かもしれないと起きるたびに思った。
折角、寝ているのを起こすのも無粋な気がしては仮眠室のカーテンを閉めに窓へ向かう。そうすると必然的にロイのいるベッドに背を向けるわけで。
「え?」
手首に摑まれたような感触を感じたかと思ったら、急にの視界が回転した。
そして、ちょっとの衝撃に思わず、目を瞑る。
そうして、おそるおそる目を開けると眼前には、子憎たらしいほど満面に笑みを浮かべたロイの顔。
「……エロい顔。」
「ほう、俺の寝込みを襲いに来た者が言って良いことじゃないな。」
「なっ!!襲ってないじゃない!」
「だが、俺の寝顔を随分、眺めていたようだが、な。」
「え?起きて!!じゃあ、さっきの声は?」
「ふっ、思い出すだろう?」
含みを持たせた言葉を耳元で囁く。
一気に顔を真っ赤にする。もちろん、この至近距離でロイが気づかないわけも無く。
「顔が赤いな。」
そういい、の首に自らの顔を埋める。
「夕日のせいよ!!」
その答えにくすくすと笑いながらの横に寝転がるロイ。
そして、の夕日、と言う言葉に自分が寝すぎたことを知った。
「なっ!中尉に起こして欲しいと言っていたのだが。あーすまない。」
「いいよ。いつでも行けるし。」
まだ、顔の赤いままそう言う
がロイと交わした約束。

図書館で、一緒に本を読みたい。

それはロイにしてみれば些細なもの。にとっては違うもの。の好きな時間を少しでも、ロイと共有したい、という。


「でも、一言、言わせて。」
これにはさすがのロイも、口答えはできない。そして、を促すと意外な恨み言が。
「だから、昨夜、…しないっていったのに。」
昨夜、ロイはを抱いた。それは、にとってもロイにとっても体力を激しく消耗するほどに。
どうやら、母親からの手紙はあまり効をなさなかったようである。
まあ、恨み言といってもあくまで照れながら言っているので説得力のかけらも無いのだが。
実のところ、ロイもこういう慣れていないことに対してがことのほか照れる、ということはつい最近知ったことで。
そこを可愛いと思っている。本人には決して言わないが。
が本気で拒めば、俺もしなかったんだが?」
 悪びれも無く言うロイに何とか、一撃お見舞いしたかった自身もこういうことでロイに適わないことは、不承不承だが、認めている。
 だが、悔しいことに変わりは無く。
「三十路間近のくせに。」
ピキッとロイの何かにヒビが入った。それは、男にとっては重要で女にとってはどうでもいい男の矜持。
「ほお。そんなことを言うのなら、俺の体力がどれほどかここで証明しよう。」
そのことばに、どうやら自分が自雷を踏んだことに気づいたは急いでベッドから逃げようとするが、ロイに両手首をそれぞれ縫い付けられてしまった。
そして最終兵器、とばかりに叫んだのだった。
「リザアアアアアァァァァァ!!」



ドンドンドンドンドン



「大佐、お戯れはそこまでにしてください。さあ、こっちに。」
あくまで、銃をロイにむけながら言う。そこで、少しでも動こうものなら
「大佐、私の銃にもう一発残っていることをお忘れなく。」
と釘を刺したのだった。


思わぬ邪魔が入り、また、をどうこうする機会は帰宅してからと言う結論のもとロイは仕事を再開した。
「??中尉、妖精でもきたのかね」
ロイの苦手とするところはほとんど終わっていた。たしかに後回しにしていたのに。
「それでしたらが片付けましたよ。」
「!?」


『ねえ、リザ。これ、途中まで私がするからロイをもう少し寝かせといて?』


言葉通りは、それらの書類を残りはロイのサインのみ、というところまで片付けたのだった。
それを聞き、ロイは苦笑しつつ今夜は優しくしよう、と決めたのだった。
その日の深夜。帰宅したロイにそれはそれは、甘やかされたはあまりにその様子が不審だったために
「頭が沸いたの?」
といってしまい、結局はいつもと同じ、否それ以上に愛されてしまったとか?


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