タイトル『窓越しの空』
あなたの部屋から見るものはいつも大抵、一緒なのね。
あなたの肩越しにみる天井。
あなたの描きかけのキャンバス。
あなたの怪我。
そして、あなたの部屋からはいつも、窓越しの空しか見ていない気がするわ。
「草灯。あなた、また怪我したのね。」
そう言う私に、草灯は一瞥をくれる。
「課題、明日の正午まで。間に合うの?」
同じ美大に通っているから、専攻も同じだから、それくらいは分かる。締め切りとか草灯の進み具合とか。
どんなに話しかけても、注意を惹こうとしてもあなたは、私のほうは見ない。
どんなにあなたと身体を重ねても。
それは変わらない。
悲しいことなのに、私はそれをどこか許容している。
今日も私は、あなたの家で空を見る。
それは、ベッドから仰向けに見る、窓越しの空。
それが、漆黒から群青にかわり蒼に変わる、その様を。
「っ、んっ」
思わず、声が漏れて口を覆う。恥ずかしいとか、そういうのではない。なんとなく、聞かれたくない。
なんとなく?
違う。悔しいのだ。草灯は私を抱いてはいるけれども、それは夢中というほどではない。
それなのに、私だけ声を上げて、我を忘れるような、
そんな、惨めなのは嫌だ。
くだらない。女の意地。
ただの抱き人形としてではなく、みてほしい、
そう、思っている自分に嫌気が差す。
「っ!いった!」
心ここに在らずなのを感じたのか、草灯が首に噛み付いてきた。
「随分、余裕だな。」
心なしか少し不機嫌な気がする。
しかし、余裕といった草灯のほうが数段、余裕そうに見えるのは何故なのか。
「…余裕、失くしてみせて。草灯。…ん、っやあ」
いきなりの動きに驚いて、でも、草灯の身体の熱が上がっていくのが分かった。
前後に動く草灯の肩越しに、天井と窓から見える空。
その、空の色の移り変わりが私の時計。
「も、う。だめ。…離して、そうび。」
体力も限界かと思われた。空の色は、白みかけていた。
「まだだ。。まだ、足りない。
、良いことを教えてあげようか。」
この夜?初めて名前を呼んでもらったことに、嬉しく思う。
そして、もう少しだけ、付き合おうかと考えている自分にはかなり呆れてしまう。
良いことも気になる。
気だるい身体を、渾身の力で動かす。けれども動いたのはどうやら、顔がわずかに草灯を見上げるのみだった。
「人の身体は、そう限界をむかえないものなんだよ。特にこういう行為には、ね。
多少の無茶は、できるように創られているんだよ。」
その言葉は、甘美なようでこれからまだしばらくは、快楽の拷問が続くことを示していた。
「」
そんな鬼畜な言葉にも、一言、名前を呼んでもらっただけで受け止めてしまう。
草灯の言葉には何か、逆らえないものがあるような気がする。
「や、だめ。…も、う。」
激しい律動の中、声もかすれているのがわかる。
私の最後の懇願にも、草灯は動きを止めることは無かった。
そこで私の意識は途絶えた。最後にどうしても、草灯に触れたくて手を伸ばす。
その手が顔に、頬に、触れそうになったその瞬間。
「触るな。」
その手は草灯自身によって、阻まれた。
最後の視界が熱いもので、ぼやけた気がした。
シャワーを浴びた後、草灯はを見下ろす。
その髪を手に取り、どこか酷薄そうな笑みを浮かべる。
「、君は知らないんだろうね。俺がを呼ぶ“声”に力を混ぜているなんて。」
の顔から流れている涙を口に含み、もう一度を見下ろす。今度は若干、優しそうに。
「好きだよ、。立夏とはまた違うけれど。それでも、好きだよ。」
窓から見える空は、真っ青で、今日も晴天のようだった。
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