タイトル『Sな彼女とMな彼』

その日はたいそう機嫌良くランチをとっていた。
鼻歌交じりでそれはそれは嬉しそうに。
天気も晴天。
場所も市内で有名なカフェであった。そこの売りは天気のいい日には外での麗らかな陽気に包まれて和やかに食事のできるところだった。
もちょうどその売りであるところで歌いながら。
歌いながら…。
だが、聴く者は皆一瞬で顔を蒼白にするのだった。
その歌詞に。
さて、ちょっと聴いてみましょうか。

「〜♪血まみれ〜血みどろ〜♪ぐっちゃぐちゃ。青が紫に変わるよ、血の色で〜♪」
因みに、のランチはハンバーグランチ。

ちょうどの後ろを通りかかったものたち(一番被害にあっているのは主にウェイター)は、通りかかり始めた頃と通り過ぎた後で顔色が違うとか何とか。
うん、哀れ!

そうこう言う内に彼女の歌はまだ続く。
「彼は私の玩具〜今頃きっと〜♪」
「な〜に物騒な歌詞つくってんだ?」
途中で中断し周りの者を救ったのはハボックだった。彼は青レンジャーこと、ロイ・マスタングの部下で主に案外力の無いロイの力部分をサポートしているものである。
というのは建前でいつでもロイの尻拭いをさせられている者であった。トレードマークはその加え煙草。
そして、もう一人の闖入者。
「いよう!、随分ご機嫌だな。」
マース・ヒューズはロイの無二の親友で、そのためとも知り合いであった。まかりなりにも彼女はロイの幼馴なじみ兼恋人なのだから。
「あらら、ハボックにヒューズ。ご飯?」
自作の歌が中断されたにもかかわらずの機嫌は崩れない。いつもならば一睨みはするというのに。一体、何が彼女をそうさせているのか。
「ところでロイのやつはここにいないのか?」
ヒューズはロイとが、一緒にランチをとっているものとばかり思っていたので少々意外そうだった。
その問いにの笑みは更に深くなりただ、頷いただけであった。
ヒューズもハボックもロイの部下であり戦友でもあった。ロイは以前、青レンジャーとして『イシュヴァール殲滅戦』に出ていた。ただ、そのときに欠員ができ、
その穴を埋めるものがいないため今、5人で全員のはずのハガレンジャーも青、黒、桃の3人しかいない。どうも候補として赤が数人いるらしいが。
とにかく、その欠員が出たときに以前から知己であったヒューズとその場に居合わせたハボックがその場を埋めていたとか。
ロイは今のところ、その新しい赤候補に関する選別で忙殺されていた。その上彼は新長官(注:通例は赤レンジャー)が決まるまでの代理でもあった。
はずだったのだが。
「そういや、さっきからあの人がいないってリザさんが探し回ってたっすよ。」
その言葉を聞き、嬉しそうにこくんと頷く
その様子をみて、そしての今日の異常なまでの機嫌の良さから、ヒューズはどこか嫌な予感を感じていた。
ハボックはともかくヒューズの関してはのロイに対する愛情表現をよ〜っく知っていたからだ。
「なあ、。お前、ロイのことで何か知ってるんじゃないか?」
「うん♪」
即答。笑みは絶やさずに。
そして、ヒューズは察した。この異常なまでの機嫌の良さ、これは…
(ロイのやつ、今度は何で怒らせたんだ?)
そう、は怒っていた。そしてその鬱憤を本人にその怒り相応に食らわせたので今現在、機嫌が良かったのだ。

ここで、注意。あくまでも彼女と彼は相思相愛のはずです。なぜなら、が呼ぶロイの愛称がロイロイなのですから。
ただ、なんというか怒ったは普段のS度が更に上昇すると言うかなんというか。
それを知っているのは極僅か。ロイ自身とを除けばヒューズとリザくらいだった。
つまりハボックはこのことを知らないわけです。
そして、ハボックの心中。
(これだけの機嫌が良いって事はあの噂は出鱈目だったのか。)
という予想、確信を経て彼は言ってしまった。つい、と言う名の衝動で。
「青い人が仕事サボってデートに行ってたってのは単なる噂だったんすね〜。」
あくまでものほほんと。

だが、これが彼らの運のつき。
「うげっ、あんの馬鹿!」
ハボックの発言に苦虫を潰したような渋面を顕にするヒューズ。発言した張本人は、自身に纏わりつく冷気に発信源を見た。思わず彼の口からは煙草が落ちた。
だが、それを気にしてはいない。自覚すらもしていないのではなかろうか。
彼の中にあるのは本能的な恐怖。
発信源は
「うふふ、そうよ、お出かけしてたみたいね。しかもご丁寧に移り香まで残してくれて。
私以外の女性と。
そりゃね、情報収集とかなら嫌だけど納得はするわよ。もちろんお仕置きはするけど。でもね、何も私の誕生日を仕事で駄目にしておきながら
その次の休みに変な口実使ってまで出かけるなんて。許せる?い〜え、許さない、許すはず無いじゃないのよ!」
何が一番怖いって、始終笑顔なのが恐怖だ。引きつってもいないし。
「で?、今回はロイの野郎に何したんだ?」
「よくぞ、聞いてくれました!!資料室にロイを誘い込んで、カーテンでぐるぐる巻きにして、吊るして来たの。
あ、そうそうしかも今回は逆さづりに挑戦してみましたvv」
語尾にハートをつけてさも実験が成功した報告のように嬉々として話す
こうして、の本性(ドS)を知る人が新たに一人増えたとか。
だが、命は惜しいためそのものを沈黙していたとか。






一方、資料室。
「で、何をやっていらっしゃるんですか。青レンジャー殿?代理長官殿?ロイ・マスタング殿?」
逆さ吊りにされているロイを発見したのはやはりリザだった。しかも彼女はなぜ、彼がそうされているかなど簡単に想像がついていた。
一体、どのくらいの時間そうしていたのか。彼の血の気はすっかり下がりきってしまっていた。
「いや、これはだな。人として高みを目指すための苦行だよ。仏教という宗教で随分昔に行われていたもので……」
「それで悟りは開けましたか。」
「うん。とにかく下ろしてくれないか。」
カーテンのほうに視線を移すとその仕掛けは単純でロイともあろうものが解けないものではなかった。
つまり、わざとこうしていた、と。
そういう結論に至りため息をつくリザ。そして救出された者に一言。
「あまり変態が過ぎると捨てられますよ。」
言い残したリザは颯爽と去っていった。その後姿を見てロイは一人ごちた。
「やれやれ、誤解されたかな。これもの計算のうちのようで怖いものだな。」
そして彼は床に転がっていた小さな箱を持ち上げる。否、そうしたかったのだろうが体が言うことをきかないのでそのままぺしゃりと突っ伏した。
(あ〜〜、今回はきつかったな。)
その小さな箱はへの誕生日プレゼントで中身は香水。ロイの会っていたものとはその店員で移り香は店で着いたもの。
それが真実。
もちろんこのことはも知っている。
しかし、どうも腹の虫が納まらなかったらしい。最後に薄っすらと涙を浮かべ叫んでいたのことをロイは思い出す。

『ロイがプレゼント選んでくれてたってわかってる!!でも、せっかく二人でいられた時間を違う女と一緒にいたことが私には絶対に許せないことなの!
嫌なの!!』


眩暈が少し治まったところでロイはようやく起き上がり、箱を掴む。
「やれやれ、今度からは一緒に買いに行くか。」


こんなことが怒ってもに対しては呆れなど起こらないロイ。
いつでも愛情表現の苦手な

なんだかんだでこの二人まだまだうまくいきそう。



因みにランチ後にロイに対しては一言。
「やーっい!ロイロイのへんたーい、マゾ〜。」




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